研究概要 |
筋肥大・再生の過程で、古典的炎症性マクロファージ(M1)と代替的抗炎症性マクロファージ(M2)の2種の活性化マクロファージが浸潤することが知られている。本研究により、これらが時系列的に損傷筋に浸潤し筋芽細胞の移動・分化・融合を調節していること、また、運動神経末端の再生筋線維(筋細胞)への再接着制御にも関与していることを示す実験結果を得た。概要は以下の通りである。1)先ず、鉗子による圧迫損傷およびcardiotoxin(蛇毒)の注入による筋損傷とその後の再生過程を調べたところ、いずれの場合も、M1は筋損傷後1日目(day-1)で浸潤が認められday-3にピークを迎えた後急速に減少するのに対し、M2の浸潤は遅れてday-4,5(細胞分化初期)でピークとなりday-14には消失することがわかった。2)次に、M2を培養して得られた培養上澄を用いて筋芽細胞を培養すると、細胞の走化性および分化・融合が促進された。M1の培養上澄にはこれらの活性は認められなかった。また、走化性は肝細胞増殖因子(HGF)の中和抗体の添加により完全に阻害されたことから、M2が合成・分泌するHGFによって(定量的RT-PCRおよびwestern blottingでも確認済み)筋芽細胞の走化性が制御されていることが明らかになった。3)また、M2の培養上澄により、筋芽細胞におけるsemaphorin 3A(神経軸索成長ガイダンス因子)の合成・分泌もHGF依存的に増加することが確認された。これらの結果は、M2は筋芽細胞の移動・分化・融合を促進し筋線維の肥大・再生に寄与しているだけでなく、細胞分化初期にSema3A発現を促すことで運動神経末端の接着(神経支配の回復)の制御にも能動的に関与していることを示唆している。本研究により、活性化マクロファージと筋芽細胞の細胞間コミュニケーションの分子基盤の一部が明らかになった。
|