本研究は、皮膚上皮と胸腺上皮の前駆細胞・幹細胞に共通して発現する転写因子を指標として、皮膚上皮細胞の胸腺上皮細胞への分化転換の可能性について、転写因子による分化転換の面から検討を行い、人工的に機能的な胸腺を構築する技術開発の基盤形成を目指すものである。転写因子としては、胸腺上皮前駆細胞に高発現するホメオドメイン転写因子であるMeis1ならびにそれと協調して機能する転写活性化因子Yap1に焦点を絞って研究を行った。まず、皮膚における各毛包時期でのMeis1の発現を詳細に解析した結果、形態形成期においてMeis1の発現は毛包上皮細胞及び真皮細胞に認められ、特に真皮集塊や毛包上部に隣接する真皮細胞で高発現していた。また成体での各毛周期でもMeis1は毛包上皮細胞及び真皮細胞に発現しており、特に毛包幹細胞が存在するバルジ領域や毛乳頭で高発現していた。また、Meis1を皮膚組織で欠損させ、毛の再生におけるMeis1の機能について解析した結果、Meis1を欠損すると毛の成長に数日の遅れが認められ、Meis1は胸腺上皮細胞の場合と同様、毛包幹細胞の維持に関与していることが示唆された。次に、上皮細胞への転写因子発現による分化転換誘導系の確立のために、薬剤により遺伝子発現が制御できる上皮細胞株の樹立を試みた。胎仔皮膚ならびに胸腺から単離した上皮細胞を、γ線照射Swiss 3T3フィーダー細胞上で、ハイドロコーチゾンを添加したCa2+不含MEM培地を用いて、35 ℃で培養した結果、約3週後には上皮細胞コロニーが形成され、一部の細胞は二次継代後、フィーダー細胞非依存的に増殖することが明らかになった。タモキシフェン添加により、転写因子の欠失ならびに過剰発現を誘導したが、血清中のエストロジェンの影響か、目的遺伝子の発現制御が不完全であり、今後、検討すべき課題と考えられた。
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