研究課題/領域番号 |
23658247
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
澤 洋文 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 教授 (30292006)
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研究分担者 |
長谷部 理絵 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 講師 (70431335)
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キーワード | ウイルス / 脳炎 / タンパク質 |
研究概要 |
病原性の強いウエストナイルウイルス株(NY99 6-LP 株)は、他の病原性の弱いウエストナイルウイルス株(Eg101 株等)に比べて中枢神経系に効率よく侵入し、この現象はウエストナイルウイルスのEタンパク質によって規定されている、という仮説を立証する為に組換えウエストナイルウイルス作製を試みている。 組換えウエストナイルウイルスを作出するために、米国ペンシルバニア大学のDoms教授が発表した方法を用いることを考案し(Virology 334:28, 2005)、プラスミドを供与して頂いた。使用するプラスミドは、ウエストナイルウイルス956株を基にして作製されているため、コードされている956株の構造タンパク質をコードするゲノムと、NY99 6-LP およびEg101 株の構造タンパク質のゲノムを入れ換え、さらにEタンパク質に変異を導入したプラスミドを作製する予定である。本プラスミドを用いた実験については、既に第二種仕様等拡散防止措置の大臣確認実験の承認を受けている。現在、本プラスミドをヒト腎臓由来のHEK-293T細胞に形質導入し、48時間後に細胞上清を回収し、Vero-E6細胞に接種することで感染性のある組換えウイルスが作出されているかを確認している。 また、本年度は、ウエストナイルウイルスの構造タンパク質から成るウイルス様粒子を蛍光色素で標識する系を確立し、それを用いて細胞内動態を調べた。その結果、ウイルス様粒子は細胞内侵入後早期では移動速度が遅く、侵入後ある程度時間が経過すると、移動速度が速くなることを見出した。この速い移動が宿主側の微小管に依存することを薬剤による阻害実験を用いて確認し、得られた結果をまとめて、英文雑誌に投稿中である。 さらに、共同実験としてウエストナイルウイルスをマウスに接種する動物実験も開始し、中枢神経系の障害機構についても知見を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ウエストナイルウイルスのEタンパク質に着眼して、細胞内でのウエストナイルウイルスの輸送動態を解明することを目的としている。 当初、本研究ではウイルス側因子の解析として構造タンパク質の変異を有するウイルス様粒子を作成することを計画していた。しかしながら、ウイルス様粒子は感染細胞でのウイルスの増幅が起こらず、動物を用いた感染実験の際にはウイルスの存在を確認することが困難であることが予想され、新たに感染細胞内で増殖することが可能である、組み換えウイルスを作成することを計画した。平成23年度は、ウイルス非構造タンパク質および、IRES配列、構造タンパク質配列をコードするプラスミド、および前述のプラスミドに蛍光タンパク質をコードする2種類のプラスミドを作成した。作成したプラスミドを細胞に導入した結果、ウイルスの産生は認めることが出来なかったため、平成24年度は、米国ペンシルバニア大学のDoms教授から供与されたプラスミドを用いて、組み換えウエストナイルウイルスを作成する計画に着手した。本実験に必要な第二種仕様等拡散防止措置の大臣確認実験の承認の手続きも終了し、平成25年度は、この系を用いてウエストナイルウイルスのEタンパク質の変異体を有する組み換えウイルスを作成することを目指す。 細胞側因子の解析については、蛍光標識したウイルス様粒子を用いて細胞内での粒子の動態を観察することに成功し、細胞内に侵入した直後は速度が1.13 ± 0.71 micrometer/分であるが、細胞侵入後時間が経過すると、7.24 ± 4.50 micrometer/分と速度が増加すること、またこの速い動きは、薬剤により抑制されることから、微小管依存性の動きであることが明らかになった。 以上より達成度はおおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、ウエストナイルウイルスのEタンパク質に着眼して、細胞内でのウエストナイルウイルスの輸送動態を解明することを目的とする。ウイルス側の因子の解析については、ウエストナイルウイルス956株の遺伝子をコードする哺乳類細胞発現プラスミドを改変し、構造タンパク質であるEタンパク質のゲノムを、病原性の強いウエストナイルウイルス株(NY99 6-LP 株)および病原性の弱いウエストナイルウイルス株(Eg101 株)のEタンパク質をコードするゲノムに入れ替える。さらに、Eタンパク質の変異を導入したプラスミドを作製する。それらを用いて、Eタンパク質に変異を有する組み換えウイルスを作成し、細胞内での輸送動態を確認する。次に同様の組み換えウイルスを用いて動物実験を実施する。 次に、細胞側因子の解析については、現在下記の結果を得ている。 1) 細胞内の粒子の動態は、細胞侵入早期と後期の2期に分かれていること。 2) ウイルス様粒子の細胞内移動速度は早期より後期の方が速いこと。 3) 細胞内侵入後期の移動はnocodazolによって阻害されることから、微小管依存性であることが示唆される。これらの得られた結果を、他の方法で確認すると共に、得られた結果を世界へ発信することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、組み換えウエストナイルウイルスの作成に必要なプラスミドの入手および作成に必要な手続きを推進すると共に、プラスミド内にコードされているウエストナイルウイルス956株の構造タンパク質をコードするゲノムと、NY99 6-LP およびEg101 株の構造タンパク質ゲノムの入れ換え実験を推進した。また、ウエストナイルウイルスをマウスに接種する動物実験も開始した。 平成25年度は今後の研究の推進方策に記載した内容に基づいて、研究費を使用する。病原性の強いウエストナイルウイルス株(NY99 6-LP 株)および病原性の弱いウエストナイルウイルス株(Eg101 株)のEタンパク質、およびそれらのEタンパク質に変異を有し、感染細胞内で増殖することが可能である組み換えウエストナイルウイルスを作成する。細胞内でウイルスが増殖することを確認する。その後、組み換えウイルスをマウスに接種する動物感染実験を実施し、各臓器の障害の程度とウイルスの増殖の関係を検索する。 以上の研究に必要な、細胞培養実験に用いる試薬、ディッシュ類、分子生物学的実験に用いる試薬、キット類、チップ類、さらに動物実験に必要な動物用床敷きおよび飼料類、動物実験室の使用料について使用を計画する。 平成24年度の経費の節減の結果生じた使用残については、前述した動物実験に必要な動物用床敷きおよび飼料類に使用する。
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