研究課題/領域番号 |
23658248
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石井 秋宏 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 助教 (90421982)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | アレナウイルス / 人獣共通感染症 / ザンビア共和国 / Luna virus / Lunk virus |
研究概要 |
平成23年度計画に従い、ザンビアでのアレナウイルスの野外調査およびウイルスの分離を試みた。ルサカ周辺で捕獲した計176頭の齧歯類動物についてRT-PCRによるスクリーニングを行い、8頭からアレナウイルスを検出した。ウイルス陽性マストミス7頭からLunaウイルス 4株と陽性アフリカンピグミーマウスから新規アレナウイルス1株を分離した。分離ウイルスについて、次世代シーケンサーを用いて全ゲノム解析を行った結果、新規アレナウイルスはLymphocytic choriomeningitisウイルス(LCMウイルス)に近縁の新種であることが明らかとでき、Lunkウイルスと命名した。アフリカ大陸に存在すると考えられる主要なアレナウイルスはLassaウイルスおよびLCMウイルスの2系統に大きく分類できるが、アフリカではLCMウイルスの系統は分離されていなかった。本研究によりザンビアの野生齧歯類動物から新規LCMV様アレナウイルスを分離し、全ゲノム解析を行ったことでその遺伝的背景を明らかとすることができた。 次に、自然宿主動物と他動物内でのLunaウイルスの性状について検討を行うため、リバースジェネティクスによる改変Lunaウイルスの作出に必要なツールの作成を行った。クローズドコロニーで飼育しているマストミスの腎臓から得た上皮系細胞の初代培養細胞が30代以上継代できることを確認し、この細胞株をMKF3と命名した。MKF3にSV40のLarge T遺伝子を導入することで、さらに生育の速度が速く、細胞密度の高い株を作成した(MKF3T)。ウイルスゲノムをT7 RNA polymeraseによって発現させるため、MKF3およびBHK細胞株に導入した(MKF3T7およびBHKT7)。この細胞中でT7 promoter下流に挿入した遺伝子が発現することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、人獣共通感染症であり出血熱の原因ともなり得るアレナウイルスの分子生物学的解析を行うことを目的とし、アフリカ ザンビア共和国で野生齧歯類動物の保有するアレナウイルス調査および解析を行う計画である。平成23年度に行ったザンビアでの野外調査で、Lunaウイルス株および新規LCMウイルス様アレナウイルスであるLunkウイルスを発見した。Lunaウイルスは昨年度にも同じ場所で分離していたことから、自然状態での1年間での遺伝的遷移を明らかとした。また、アフリカ大陸を含む旧大陸では、これまでに大分類としてラッサウイルスおよびLCMウイルスの2系統のアレナウイルスが発見されているが、アフリカでのLCMウイルスの分離は報告は無く、本研究において初めてLCMウイルス様ウイルスを分離できた。これにより、ザンビアにおける主要な2系統の旧大陸アレナウイルスを明らかとした。2008年にザンビアでは、新規アレナウイルスであるLujoウイルスによる出血熱の患者が発生したが、このウイルスの自然宿主、感染経路等は未だ明らかではない。本研究で見いだされたザンビアの2種のアレナウイルス、LunaウイルスおよびLunkウイルスはLujoウイルスとは遺伝的背景が異なり、Lujoウイルスがザンビアの主要アレナウイルスとは遺伝的系統関係が非常に遠いものであるという知見を得られた。 Lunaウイルスについては病原性の解析を行うため、マストミス細胞株およびリバースジェネティクスを行うためのミニゲノム作成用プラスミド等のツール作成を行った。本年度においてこれらのツールが作成できたことから、今後、リバースジェネティクスによる改変ウイルス等を用いて自然宿主であるマストミス細胞および個体と、他齧歯類動物における性状解析を行うことが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
ザンビアでの野外調査を継続し、齧歯類動物中のアレナウイルス分離およびゲノム解析を行う。調査地域をこれまで継続して行ってきたルサカ周辺に加え、ザンビア南西部のリビングストン、北部のタンガニーカ湖周辺等の地域での調査を行う。これにより、自然宿主動物中に保有されるLunaウイルスおよびLunkウイルス等の時間的、距離的要因から起こる遺伝的遷移を明らかとすると共に、未だ由来不明のLujoウイルスの自然宿主の探索を行う。また、アレナウイルスは齧歯類動物以外からでは唯一、食虫コウモリから検出された例があることから、ルサカ近郊の洞窟内で食虫コウモリを採取し、スクリーニングを行う。 Lunaウイルスについては、本年度に樹立したマストミス細胞株を含め、他マウス細胞株やハムスター細胞株等で感染実験を行う。各細胞への感染効率や増殖能の違いなどを観察し、宿主-ウイルスの相互作用を分子レベルで明らかとしていく。また、自然宿主であるMastomys natalensisに近縁のMastomys couchaをモデルとして用いて、これまでに分離できた株の感染実験を行う。マウス、ハムスター等の他齧歯類動物に感染させ病態の有無や経過等を観察する。次世代シーケンサーを用いることで、10kb程度のウイルスゲノム配列は容易に決定できることから、各動物内で継代を行うことで生じるウイルスの遺伝的変異をゲノムワイドに追跡する。これらの解析から、Lunaウイルスの宿主域や病原性等に関わる因子を明らかとすることで、人獣共通感染症の発生機構の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
アレナウイルスのスクリーニングを行うため、RNA抽出試薬、RT-PCRおよびシーケンス等に必要な酵素類、オリゴDNA等の消耗品が必要となる。本年度には次世代シーケンサーを用いてウイルスのゲノム解析を行うことを計画していたが、予定していた回数よりも少ない試行で完了してしまったため、この使用予定額のうち一部を次年度で使用する。次年度計画では、時間的、距離的、生物学的な要因で生じるウイルスゲノム配列の変異を追跡する必要があることから、次世代シーケンサーによる解析を行う条件をより詳細にできる。次年度にはこのための次世代シーケンサーに関連する消耗品費が必要である。また、培養細胞を用いた実験に、培地、遺伝子導入試薬、プラスチック器具等が必要である。動物実験には、実験動物購入費、飼育費、実験施設使用料等が必要となる。 これらの研究得られた成果を報告するため、学会参加のための旅費、論文校閲料、投稿費等が必要となる。
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