研究課題/領域番号 |
23658249
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
落合 謙爾 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (80214162)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | トリ白血病ウイルス / レトロウイルス / 心筋症 / 心筋炎 / 肥大心筋線維 / 基質封入体 / トリのグリオーマ |
研究概要 |
トリのグリオーマ誘発ウイルス (FGV) はトリ白血病ウイルス A 亜群 (ALV-A) に属し,鶏の脳に神経膠腫,非化膿性脳炎,小脳低形成や神経周膜腫を誘発する。研究代表者はこれら罹患鶏に心筋異常を示す例を複数見出した。ヒトの特発性心筋症の発生にはヒトレトロウイルス感染症の関与が推察されているが,その詳細は明らかにされていない。本課題の目的は FGV 感染と心筋異常との因果関係の究明を通してレトロウイルスがもつ心筋細胞に対する病原性を検証することである。初年度は野外例の心筋病変の発生率を調査し,さらに病理学的解析を行った。症例は日本鶏 18 羽で,2羽に頭部反転,斜頸といった神経症状が認められた。また,4羽に産卵停止,3羽に削痩,1羽に貧血,1羽に肉冠の萎縮がみられた。これらの羽髄または脳は FGV または ALV 特異的 PCR に陽性を示した。組織学的には 18 羽中 10 羽の脳にトリの神経膠腫が認められ,18 羽全ての心臓に ALV により形成される筋形質内基質封入体と非化膿性心筋炎が認められた。基質封入体は心筋線維とプルキンエ線維に分布し,染色性により好塩基性封入体とヘマトキシリンにほとんど染まらない封入体に区別された。また,18 羽中 7 羽 (39%) の心臓には巨大な異型核を持つ肥大心筋線維が限局性または多病巣性に認められ,これら心筋線維にはときおり基質封入体や有糸分裂像が認められた。また,最も重度の心筋病変を示した1羽の脳から FGV 変異株が分離された。以上の成績から,FGV 変異株の感染に関連して心筋炎と心筋の形態異常が発生していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに ALV によって非化膿性心筋炎が誘発されることは報告されているが,心筋線維の肥大や成熟後再生能が失われる心筋線維に有糸分裂像が発生することは明らかにされていなかった。今年度得られた成績により,ALV感染鶏には高率に心筋異常が起こりうることが浮き彫りとなった。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は免疫組織学的解析を実施して病変性状をより詳細に明らかにするとともに,基質封入体と心筋異常との関連性,罹患鶏から分離された ALV のゲノム解析,分離株の感染実験,他の病原体に関する検索を実施し,ALV と心筋異常がどのように関連しているか,明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の実験計画を考慮し,経費節約により未使用額が発生した。上記未使用額は今年度の試薬・器具の購入費に充てる。
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