小児インフルエンザ脳症は2~4歳の小児に好発する急性脳症で、インフルエンザウイルス感染後高熱を発し、甚急性経過で死亡する疾患であり、我が国では毎年50~100名が罹患している。本症の主要病変は左右対称性急性脳水腫であるが、脳および脳脊髄液中にインフルエンザウイルスが証明されることは稀であり、本症の発生機序は不明で、従って、予防・治療法も未だ確立されていない。 本症を実験的に再現し、その発生機序を解明するために本研究を行った。ヒト症例では血液脳関門の透過性亢進および高サイトカイン血症が共通して指摘されていること、小児の脳病変が子豚の脳脊髄血管症と呼ばれる大腸菌性内毒素血症に類似していることから、乳のみマウスに小児から分離されたH3N2亜型インフルエンザウイルスを経鼻接種し、その後、腹腔内に大腸菌由来リポ多糖体(LPS)を接種し、小児インフルエンザ脳症の再現を試みた。その結果、インフルエンザウイルスおよびLPSを接種されたマウスは脳水腫によって高率に死亡し、いずれも血液脳関門の透過性亢進と高サイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIL-6)血症を示した。さらに、血液脳関門の透過性亢進は脳血管内皮細胞と星状膠細胞のアポトーシスに起因していた。 以上の結果から、インフルエンザウイルス感染と高熱下で腸管内で増殖した大腸菌に由来する高LPS血症の重複作用によって小児のインフルエンザ脳症が発生する可能性があることを示した。
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