ヘモプラズマは哺乳動物の赤血球に寄生して増殖するマイコプラズマの総称で,感染した動物に溶血性貧血を引き起すことが知られている。ウシには2菌種のヘモプラズマが感染することが知られている。しかし,わが国のウシにおける感染状況はこれまでに明らかにされていない。そこで,本年度は国内におけるウシヘモプラズマの浸潤状況を調査した。ウシに感染する2種類のヘモプラズマのうち、Mycoplasma wenyoniiのTm値は82.04±0.27℃であり,一方‘Candidatus Mycoplasma haemobos’のそれは86.86±0.12℃であることから,これを基準にして菌種を同定した。その結果,広島県と宮崎県においてそれぞれ69.4%(25/36),93.8%(30/32)のウシのヘモプラズマ感染が見つかった。広島県のウシ36頭のうち18頭は1歳から2歳で残りの18頭は成牛であったが,年齢とヘモプラズマ感染を関連づける証拠はみつからなかった。宮崎県では非常に高いヘモプラズマ感染がみられ、生後3ヶ月以内で冬に生まれたウシからもヘモプラズマが検出された。本研究において,へモプラズマに感染しているウシはヘモプラズマ感染による顕著な臨床症状を示さなかった。PCRによりヘモプラズマ感染陽性と判定されたウシのうち,重篤な貧血を起こしていた個体はおらず,またすべてのウシがヘモプラズマ症とは関連のない症状を現しており,臨床所見等からこれ以上詳細な分析は不可能であった。本研究により,広島県と宮崎県において飼育されており貧血の症状が顕著ではないウシの間で‘Candidatus M.haemobos’が広汎に存在しており,感染個体は臨床症状が消失した後も慢性的にキャリアとなっている可能性が高いと考えられた。また,ベクターのいなくなる期間における新生子への感染は垂直感染の可能性を示していた。
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