Alpha-B crystallin(CRYAB)は水晶体中の主要水溶性タンパク質であり、全身に存在する。CRYABは心筋細胞の構造を維持や、水晶体の透明度の維持を行っている。Alpha-A crystallin(CRYAA)はほぼ水晶体にしか存在せず、水晶体における透明度の維持にあたって大きな役割を果たしている。この二つのタンパク質に異常が起こることによって、シャペロン機能の欠損や活性の低下がおこり、様々な部位に影響が及ぶ可能性がある。本研究では、家族性の拡張型心筋症と白内障の合併がみられるアメリカン・コッカー・スパニエル(ACS)の家系犬と対照ビーグル犬における、CRYAB遺伝子のエキソン領域(Ex)1、2、3およびCRYAA遺伝子のEx1、2、3、4の遺伝子解析を行い、疾患との関連性を検討した。末梢血由来ゲノムDNAを抽出し、これを用いてCRYAB遺伝子のエキソン領域(Ex)1、2、3およびCRYAA遺伝子のEx1、2、3、4のシークエンスを行った。 その結果、CRYAB遺伝子では117G>T(Ex1)、46T>C(Ex2)、CRYAA遺伝子では 273G>C(Ex3)が確認された。これらはいずれもアミノ酸非翻訳領域の一塩基多型であった。これらの多型の接合型と疾患発症についてカイ二乗検定を行ったところ、CRYABの117G>T(Ex1)においてのみ白内障との関連性が示唆された。さらに多型の有無と発症について検定を行ったところ心筋症との関連性も認められた。 今回の研究により、犬において初めて、白内障の発症と関連している可能性のある遺伝子多型を明らかにすることができた。このCRYAB遺伝子の多型は、ACSのみならず、他の犬種における心疾患、拡張型心筋症および白内障の発症に関連する可能性が示唆された。
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