研究課題/領域番号 |
23658265
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
山手 丈至 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50150115)
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研究分担者 |
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20244668)
竹中 重雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10280067)
井澤 武史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (20580369)
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キーワード | 獣医病理学 / 線維化 / 萎縮腎 / 肝線維化 / 上皮-間葉転換 / betaーカテニン / α-平滑筋アクチン / 幹細胞 |
研究概要 |
萎縮腎や肝硬変/胆管線維症などの難治性線維化は進行すると組織の機能障害を招く。傷害された上皮細胞の異常分化現象として捉えられている「上皮-間葉転換(EMT)」は、上皮細胞が細胞外基質を過剰に産生する筋線維芽細胞に転換し、その結果線維化の増悪にEMTが係るとされる。しかし、その病理発生機序と臨床学的意義の全貌は解明されていない。昨年度は、腎線維化モデルを用いて、幹細胞を認識するThy-1抗体を指標にEMT現象を解析したところ、発生腎では尿細管上皮細胞への分化能を有する後腎芽体細胞とその周囲の未分化間葉系細胞にThy-1発現がみられた。しかし、分化した尿細管上皮にはThy-1発現はみられなかったことを明らかにした。本年度は、傷害された尿細管上皮に発現する上皮系(β-カテニン)と間葉系(ビメンチン、α-SMA)マーカーの発現を指標に、シスプラチン誘発ラット腎障害モデルを用いて解析を行った。その結果、シスプラチンモデルでは、再生しつつある尿細管上皮の細胞質にWntシグナルに関係するβ-カテニンが発現した。一方、線維化部位のα-SMAを発現する異常な尿細管上皮にはβ-カテニンの発現はみられなかった。β-カテニンは比較的良好な尿細管再生に係わっていると考えられたが、再生尿細管にはビメンチンの発現が常にみられることから、EMTとの関連でさらに追究が必要なことが示された。また、α-Naphthylisothiocyanateによる胆管線維症モデルでは、再生しつつある胆管上皮にビメンチンの発現がみられたが、α-SMAの発現はみられなかった。現在、ネスチン発現と胆管上皮のEMTとの関連を追及しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は、難治性線維化に係わる上皮-間葉転換(EMT)の病理発生を解明し、EMTを新たな病態として確立し、かつその治療法の開発を目指すことである。また、「EMTの幹細胞起源」を追究する本研究の目的は、再生医学の基盤研究となると考える。本年度は、以下の実験を行い、成果を得た。EMTは線維化部位の尿細管上皮、肝内胆管上皮、毛嚢上皮に生じる可能性がある。よって、cisplatin誘発腎線維化、α-Naphthylisothiocyanateによる胆管線維症、皮膚にパンチで創傷を作製しその修復過程で生じる毛嚢周囲の線維化病変を用いてEMTの病態を免疫組織化学的に解析した。まず、EMTの病態解析に必要な新規マーカーの探索を行った。上皮系マーカーとしてケラチンのサブタイプであるAE1/AE3とCK19(上皮系の起源と分化程度を反映)を、間葉系マーカーとしてThy-1(筋線維芽細胞への分化因子)、α-平滑筋アクチン(SMA)/ビメンチン(筋線維芽細胞の細胞骨格)の発現を検討し、これらのマーカーがEMT現象の解析に有用であることを見出した。かつ、これらのマーカーを用いて、再生しつつある尿細管と胆管上皮のEMTを解析することができた。さらに、再生尿細管の検討では、EMTに係るとされるWntシグナルで重要なβ-カテニンの発現を免疫組織化学とmRNA発現レベルで解析することができた。当初の研究計画としていた毛包上皮でのEMT解析とEMTに関わるTGF-β1因子以外のファクターの関わりの検討については、材料を得て現在解析しつつある。3年間の研究期間の2年目が終了したが、「「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、当初立案した以下の計画に沿って、研究を展開する。 1.ラットの線維化における EMTの病態解析と誘導因子の解明:α-Naphthylisothiocyanateによる胆管線維症、cisplatin誘発腎線維化、皮膚にパンチで創傷を作製しその修復過程で生じる毛嚢周囲の線維化病変を用いてEMTの病態を免疫組織化学的に解析する。これらは継続して用いているモデルである。1-1.EMT誘導因子の探索: TGF-β1以外の因子として、骨形成因子(BMP)について、リアルタイムPCR 法で解析し、その局在を明らかにする。1-2. EMTとWnt系シグナルの解明:前年度に続き、Wntシグナルとβカテニン、そして尿細管上皮傷害因子(Kim-1)について、検討を加える。 2.体性幹細胞起源の立証:体性幹細胞が様々な病変形成に係ることが明らかにされつつある。2-1.In vivoモデルを用いた解析: A3は骨髄や血管周囲の体性幹細胞を識別する。A3を用いてラットの線維化モデルと発生過程の材料に適応し、A3陽性細胞の動態を線維化との係わりで免疫組織化学的に解析する。EMTの幹細胞起源が証明できる。 2-2.In vitro細胞モデルを用いた解析:iPS細胞類似のMT-9を用いて、この細胞株に誘導・抑制因子を添加し、EMT現象に係わる免疫表現形の解析と細胞内Smadシグナル機序を解明する。 3.培養系を用いたEMTの分子メカニズムの解明: EMTに関わる因子をin vitroの系で解析し、細胞内シグナルを含めた分子メカニズムをより詳細に明らかにする。 4. 総括:EMTの起源細胞の同定、臓器間・胚葉間の普遍性、新規マーカーと誘導・抑制因子を明らかにすることで、EMTの病理発生機序を総合的に解明する。この成果に基づいて、「EMT理論」を構築し、病的な線維化の改善策を臨床学的に探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. EMT現象を解明するマーカー探索のための抗体:上皮系マーカーとしてケラチンのサブタイプであるAE1/AE3とCK19(上皮系の起源と分化程度を反映)を、間葉系マーカーとしてThy-1(筋線維芽細胞への分化因子)、α-平滑筋アクチン(SMA)/ビメンチン/カルポニン(筋線維芽細胞の細胞骨格)、さらにはWntシグナルで重要なβ-カテニンやKim-1の発現を検討する。かつ、EMTに関わる因子とBMP-2、オステオポンチン、リポカリンなどの抗体についても検討する。抗体を用いた解析では、DAB発色の免疫組織化学的染色の他に、蛍光染色や二重蛍光染色を行う。そのための試薬についても購入を検討する。 2.モデル動物の作製と解析:詳細な解析のためにラットのモデルを作製する。特に、継続的に用いているα-Naphthylisothiocyanateによる胆管線維症、cisplatin誘発腎線維化、皮膚にパンチで創傷を作製しその修復過程で生じる毛嚢周囲の線維化病変を作製する。これらのモデルを用いて、EMTの病態を分子レベルと免疫組織化学的に解析する。 3.学会発表と論文作成:国内外の学会に参加し、得られた成果を発表するための旅費や、論文投稿費などが必要となる。
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