多様な形質発揮を支配する細菌プラスミドの供与菌から受容菌への接合伝達能は細菌の迅速な環境適応と進化に極めて大きく貢献しているが、接合伝達の宿主域規定要因の詳細は不明である。本研究では、Pseudomonas属細菌由来で環境汚染物質分解能を担うIncP-7並びにIncP-9プラスミドを対象として、接合伝達宿主域を規定するプラスミド側と宿主染色体側の双方の因子・作用機構検討を通じてプラスミドの根幹的性質である接合伝達宿主域解明を目的とした。 接合伝達装置が酷似したIncP-7群のpDK1とpCAR1で、前者はPseudomonas属細菌での接合伝達宿主域能に菌株間相違を示すが、後者は示さない。本研究で、pDK1は接合伝達できない受容菌に形質転換可能なことを示し、pDK1の接合伝達宿主域能菌株間相違性は複製過程ではなく、接合伝達過程に起因することを明示した。さらに取得pDK1形質転換体を供与菌とした更なる接合実験により、この相違にはpDK1の接合時特異的DNA合成過程よりも接合対形成過程が関与すると示唆された。 大腸菌とP. putidaの種内や種間の接合伝達可能なIncP-9プラスミドNAH7のtraDオペロン欠失突然変異誘導体NAH7del-traDは前者株から後者株への接合伝達能のみを消失する。後者株でPtsPからPtsOを経てPtsNにリン酸基を転移させて様々な遺伝子群の転写などの制御に関与するPts(Ntr)系の突然変異は当該種間接合を可能にすることを明示した。PtsOやPtsNの部位特異的突然変異を用いた研究から、受容菌内でリン酸化されたPtsOが未知タンパク質のリン酸化を制御することで、当該種間接合が阻害されると示唆された。また、受容菌Pts(Ntr)系は野生型NAH7や他IncP-9プラスミドの大腸菌からP. putidaへの種間接合伝達も負に制御していた。
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