研究課題
大気中二酸化炭素濃度の上昇の問題と太陽エネルギー利用の促進の観点から、食糧等に影響しない新しいバイオマス生産系の構築のため、葉緑体包膜に存在するトリオースリン酸トランスロケーターの遺伝子を単細胞性シアノバクテリアに導入、発現させることと、シアノバクテリアにおけるゲノムサイズの縮小化を目指す。昨年度に引き続き、アラビドプシス・リン酸トランスロケーター遺伝子の、シアノバクテリア用形質導入ベクターへの組込み操作を続けた。ベクターへの組込みができた時点で、大腸菌に導入したところ、40kDaの前駆体を含むリン酸トランスロケーターが発現することを確認した。そのタンパク質が細胞膜に組み込まれたかどうかは今後の課題である。シアノバクテリアへの導入は、クロラムフェニコール耐性遺伝子をつなげた後、シアノバクテリア細胞へ入れる予定である。一方、hik8遺伝子とsll1330遺伝子によって制御を受けているフルクトース1,6-二リン酸アルドラーゼ遺伝子fbaAが、グルコースによる発言誘導だけでなく、光合成によっても発現することを確認して、論文発表を行った。また、クロレラではあるが、乾燥重量あたりの有機炭素量を求めたところ、炭素は乾燥重量の48%であった。光合成による二酸化炭素の固定速度を細胞の有機炭素量あたりの比で表わしたところ、1時間の固定量は0.17となった。このことは、細胞の有機炭素量を固定するのに要する時間(約6時間)が、細胞の倍加時間(7~8時間)にかなり近いという結果となった。このことは、細胞のゲノムサイズを縮小化し、有機炭素量を減少させることが、細胞の増殖速度増加に有効であることを意味するものである。
2: おおむね順調に進展している
リン酸トランスロケーターの遺伝子を得て、その組込みを進めている。大腸菌への導入が確認できたことから、最終年度までに、シアノバクテリアにも導入できる可能性は高い。今後の壁は、それが細胞膜に組み込まれるかどうかであり、それにより、より詳細な検討が必要となる。
リン酸トランスロケーター遺伝子のシアノバクテリアへの導入を試みる。細胞膜に組み込まれたかどうかは、膜画分でのトランスロケータータンパク質の発現解析であり、光合成産物の細胞外への排出解析である。大腸菌で発現できたことから、抗体作製も行い、シアノバクテリアでの発現解析に用いる予定である。
研究費は、当初の予定通り、プラスチック製品や培養用試薬などの消耗品(物品費)を中心に使用する予定である。実験を進めるにあたり、有効と判断した場合には、経費の一部を、一時的な学生アルバイトとして、人件費に充当する可能性もある。
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Plant Cell Physiology
巻: 53 ページ: 1720-1727
doi: 10.1093/pcp/pcs115