研究概要 |
昆虫型シアル酸の存在証明を目的として、当初設定した項目(1)~(4)について成果を記載する。(1) 昆虫型シアル酸の検出とその精製:まず、昨年度確立したシアル酸を高い精度で同定する方法(SPL/DMB法)を用いて、コクヌストモドキ成体から、昆虫型シアル酸候補分子を精製することができた。(2) 昆虫型シアル酸の構造決定: (1)で精製した分子をGLCおよびGC/MS. LC/MSで解析した結果、8炭糖酸であるKdoを含む化合物であることが判明した。ただ単純なKdoではないため、今後、大量調製をして、詳細な構造決定を行う必要がある。(3) 昆虫型シアル酸の存在分布の調査:試料を加水分解後の単糖混合物のSPL/DMB化法によって解析した結果、昨年度までに確認したように、コクヌストモドキの他にも、ミツバチ、ショウジョウバエなどにも検出され、昆虫に普遍的であった。(4) 昆虫型シアル酸の代謝経路の解明:コクヌストモドキのシアル酸生合成に関わる酵素のホモログ群のクローニングについては、シアル酸9-リン酸合成酵素(SPS)のクローニングは成功した。シアル酸9-リン酸ホスファターゼ(SPP)のクローニングについては遺伝子発現量の問題と思われ継続中である。昨年クローニングしたSPSについては、その活性に影響をもつアミノ酸残基の変異が見出され、そのために通常のシアル酸は合成できない性質をもつことがわかった。昆虫型シアル酸の特徴を示唆する興味深い事実が明らかになった。さらに、コクヌストモドキを用いて、SPS, CMP-シアル酸合成酵素、シアル酸転移酵素のRNA干渉実験を幼虫期について行った。予備的な段階ではあるが、明白な異常は観察されなかった。本研究によって昆虫特異的なシアル酸が実態としてあることが判明した。しかし、その生物学的機能については、手法の開発を含めて今後の課題である。
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