研究課題/領域番号 |
23659002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永次 史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90208025)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 光電子移動 / 変異誘導 / アントラキノン / オリゴヌクレオチド / 光増感剤 / アルキル化 |
研究概要 |
DNAに対する化学反応は遺伝情報に異常(変異)を誘起することが知られており、がんをはじめとする様々な病気の原因になることがわかってきている。特にDNAに対する光電子移動反応は、生体内で頻繁に起こり、酸化損傷などの遺伝子変異を誘起すると考えられている。しかしこれらの反応の選択性を制御するのは非常に困難である。本申請研究では2本鎖DNA内で誘起される光電子移動の制御により、変異を選択的に誘起する新しい方法論の構築を目的としている。本反応の開発において、鍵となる反応は、(1)光反応による効率的なラジカルカチオンの発生及び(2)発生したラジカルカチオンに対して求核反応あるいは酸化反応を誘導する反応である。今年度はまず光増感剤としてアントラキノン、およびアルキル化反応を誘起できる前駆体として2-アミノー6-ビニルプリンを導入したオリゴヌクレオチドを合成した。さらにさまざまな光増感剤を導入する前駆体として、D-スレイノ-ルリンカ-を導入したオリゴヌクレオチドも合成した。アントラキノンおよび2-アミノー6-ビニルプリンを導入したオリゴヌクレオチドを用いて標的DNAに対する2本鎖の安定性を検討した。その結果、2-アミノー6-ビニルプリンの5'末端側にアントラキノンを導入したオリゴヌクレオチドは2-アミノー6-ビニルプリンの3'末端側にアントラキノンを導入したオリゴヌクレオチドに比べて安定な2本鎖を形成できることを明らかにした。この結果は2-アミノー6-ビニルプリンの5'末端側にアントラキノンを導入したオリゴヌクレオチドにおいて、アントラキノンが効率よくインターカレートできることを示唆していると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、2本鎖DNA内における電子移動反応を制御し、標的塩基に対してピンポイントの選択性で変異を誘導できる方法論の開発を目的としている。現在までに光増感剤およびアルキル化反応を誘導できる2-アミノー6-ビニルプリン誘導体を導入したオリゴヌクレオチドの合成に成功した。さらにさまざまな光増感剤を導入できる方法論も確立しており、本申請研究の目的を達成する準備は整っている。さらに、光増感剤をオリゴヌクレオチドを導入する位置により、形成される2本鎖DNAの安定性が変わることを明らかにしており、今後のオリゴヌクレオチドの設計における、重要な情報になると考えている。このような結果から本研究の目的に向けて、研究はほぼ順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず光増感剤を導入したオリゴヌクレオチドを用いて、光照射による標的DNAの切断反応を指標として、効率的な電子移動を誘起する光増感剤の構造を決定する。さらにこの構造およびアルキル化反応を誘起する2-アミノー6-ビニルプリン誘導体を含むオリゴヌクレオチドを合成し、その反応性について、HPLCなどを用いて検討を行う。光増感剤に対する光照射により生じたグアニンのラジカルカチオンと直接反応する分子については、まったく報告例はなく、ランダムに検索する必要があり、多種類の分子を導入したオリゴヌクレオチドを合成する手法が必須である。そこで今年度は2-アミノー6-ビニルプリンを用いてラジカルカチオンに対して求核反応性を持つと予想される官能基を持つ、種々の反応分子を導入し、その反応性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はオリゴヌクレオチドを合成する合成試薬を消耗品費として使用する。さらに合成したオリゴヌクレオチドの精製および分析を行うHPLCのカラムの購入に使用する。また反応を評価するために必要な消耗品費の購入に使用する予定である。
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