研究課題/領域番号 |
23659007
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
武田 敬 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (30135032)
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研究分担者 |
佐々木 道子 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (30379888)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 有機化学 / 不斉合成 / 立体化学 / キラルカルバニオン |
研究概要 |
有機リチウム化合物の求電子置換反応の立体過程を明らかにするために,二重結合とフェニル基と共役するアニオンを脱プロトン化によって発生させた後適当な求電子剤で捕捉する立体化学的研究を行った.立体化学的安定性を保持した状態で発生させることができるカルバニオンとしては限界と考えられてきた,キラルなベンジルカルバニオンよりはるかに不安定な (S,E)-1-phenylbut-2-en-1-yl diisopropylcarbamate から発生させたリチオカルバニオンの求電子置換反応の立体化学を,種々のエーテル系溶媒中,炭素求電子剤およびプロトン化剤を用いて検討した.その結果,(1) 上記キラルカルバニオンはエーテル性溶媒中-50℃,5分という条件ではラセミ化しない,(2) 炭素求電子剤は inversion で,プロトン化剤は retention で反応する割合が高いが,求電子剤および溶媒のリチウムイオンに対するキレーション能の違いによりその割合が変化する,ということが明らかになった.また,カルバモイル基を有するホモキラルなシアノヒドリン誘導体から,さらに不安定なα-ニトリルカルバニオンを発生させ,求電子置換反応の立体化学を検討した.この際問題となるのは,(1) 脱プロトン化,(2) 求電子置換反応,(3) 塩基と求電子剤との反応,の相対速度なので,溶媒,添加物などの効果を詳細に検討したところ,Et2O-THF中シアノギ酸エチル存在下-114℃においてLDAで処理すると,er = 90:10 でエステル化体を立体反転で与えることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有機リチウム化合物の求電子置換反応の立体過程についての研究では,二重結合とフェニル基と共役するカルバニオンが予想以上に立体化学的に安定であり,炭素求電子剤は inversion で,プロトン化剤は retention で反応するという興味深い知見が得られた.また,inversion/retentionの割合から,中間体の構造を含む立体過程について明らかにすることができ,これらの結果を学術論文として発表した(" Steric Course of the Electrophilc Substitution of a Lithiocarbanion Generated from (S,E)-1-Phenylbut-2-en-1-yl Diisopropylcarbamate and Solvent Effects" Eur. J. Org. Chem. 2011, 6553-6557)また,これまで立体化学的に極めて不安定なため発生が不可能と考えられてきた鎖状ニトリルのα-キラルカルバニオンの発生および炭素求電子剤による捕捉に成功した.すなわち,O-カルバモイルシアノヒドリン誘導体を,Et2O-THF中シアノギ酸エチル存在下-114℃においてLDAで処理したところ,er = 90:10 でエステル化体を立体反転で与えた.この結果についても学術論文として発表した(" Enantioselective Trapping of an α-Chiral Carbanion of Acyclic Nitrile by a Carbon Electrophile" Chem. Commun., 2012, 48, 2897-2899).
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今後の研究の推進方策 |
鎖状ニトリルのα-キラルカルバニオンの発生に成功したので,さらなる適用範囲の拡大を目指して,分子内反応や,求電子剤の種類を検討する.また,ニトリル以外のエステル,ケトンなどの共役性電子求引基に隣接するキラルカルバニオンの立体化学的安定性の定量的評価法の開発も併せて行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の遂行に必要な反応剤,溶媒,クロマトグラフ資材,ガラス器具などの購入に使用する.
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