ナノテクノロジーの発展によりナノサイズの細孔(ナノポア)の調製が、容易となっている。界面活性剤は、分子のもつ親水部と疎水部がそれぞれ集合することで自己組織的に規則的なナノ構造を形成することが知られている。ポリオキシエチレン(50)ラウリルエーテル(LA-50)は、水と混合すると室温条件でヘキサゴナルやキュービック構造等の規則的なナノ構造を形成することが知られており、そのナノ構造には多数のナノポアが存在している。このナノポアを利用することで、電気泳動による物質の分離を試みた。 等量のLA-50と水とを加熱しながら混合し、ゲル板に流し込み、室温に冷やすことでスラブゲルを調製した。調製したゲルの構造を偏光像とX線小角散乱で分析し、さらに構造が報告されている類似のゲルの情報を参考にすることで、LA-50は自己組織的に直径8.0nmの球状ミセルを形成し、さらにそのミセルが一辺9.2 nmの立方体に体心立方格子の形で充填された(キュービック)構造を形成していると判断した。 キュービック構造を形成しているミセル間の隙間(ナノポア)の最大値は、約5.0nmと見積もられた。そこでまず類似の大きさを持つ試料として単層カーボンナノチューブ(SWNTs)(太さ1nm)、タンパク質の分析を試みた。タンパク質として、トリプシンインヒビター、トリプシン、アルブミンの3種を用いた。その結果、SWNTsとタンパク質は、試料を導入した所に留まり、ゲルを通り抜けることができなかった。一方、アミノ酸やペプチド等は、良好に泳動された。つまり今回の約5.0nmの空隙を有するゲルでは、小分子は泳動されるが、大きな分子はナノポアを通ることができないため泳動されなかったと考えられる。SWNTsは、太さは1nmと十分にナノポアよりも小さいが、長さが非常に長いためゲルを通り抜けることができなかったと考えられる。
|