研究課題
腫瘍形成には低酸素と酸性化(低pH)が伴う。低pHに対する癌細胞、宿主の応答機構(低pHバイオロジー)の詳細は不明である。本研究では最近同定されたプロトン感知性受容体(OGR1ファミリ-GPCR)の関与を中心に、腫瘍形成を巡る癌細胞と宿主の攻防における低pHの役割を解析することを目指した。個体レベルの腫瘍形成とOGR1ファミリ-:マウス由来癌細胞 としてLLC1をマウス皮下に接種した。炎症性マクロファージ(M1)と非炎症性(腫瘍付帯性: tumor-associated)マクロファージ(M2)をそれぞれ、iNOS,アルギナーゼの抗体染色法で調べたところ、腫瘍中には約10%のマクロファージの集積が観察され、野生型マウスの場合、M2がM1の3倍程度を占めた。TDAG8欠損マウスにおいては、M1/M2比がやや増加している傾向が観察された。その事を反映してか、腫瘍サイズはTDAG8欠損マウスでやや低下している傾向が観察された。しかし、有意な差は観察されておらず、今後、さらなる解析が必要である。インビトロにおけるM1/M2フェノタイプ変化:Th1サイトカイン(INF-g)あるいはTh2サイトカイン(IL-4, IL-13)やIL-10などで処理するとマクロファージはそれぞれM1、M2に分化する。そこで、pH変化がこれらのM1/M2変化にどのような効果を与えるかについて解析した。腹腔内にチオグリコレートを投与して回収したマクロファージを用い、iNOS、アルギナーゼ発現はmRNA(real-time PCR)、タンパク(ウエスタンブロッティング)で調べた。細胞外pHを低下させると、iNOS発現の低下、一方で、アルギナーゼの発現増強が観察された。この知見は酸性pHでM1からM2への変化を示唆している。今後、さらに別のマーカーを用いて、この点を検証し、そのメカニズムを解析する。
2: おおむね順調に進展している
プロトン受容体欠損マウスがなんらかの形でマクロファージの機能変化にかかわっていることが示唆された。また、マクロファージを用いた細胞レベルの実験で、細胞外pH低下がM1、M2変化にかかわっている可能性が示唆された。しかし、個体レベルの腫瘍形成におけるプロトン受容体の関与ははっきりした結論が得られなかった。
平成24年度は個体レベルの腫瘍形成におけるプロトン受容体の関与ははっきりさせる実験と細胞レベルのマクロファージのM1,M2変化のメカニズムの解明に全力をつくす。
平成23年度は個体レベルの実験がおもうように進展しなかったため、それに付随した研究費を24年度にまわした。今後はこの個体レベルの実験のためのマウスの維持のための経費、それに付随するジェノタイプイングのための費用、また、マクロファージの調整、各種mRNAの測定のためのプローブ、各種サイトカイン測定のためのキットなどに研究費を使用する。
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