研究概要 |
腫瘍形成には低酸素と酸性化(低pH)が伴う。低pHに対する癌細胞、宿主の応答機構の詳細は不明である。本研究では最近同定されたプロトン感知性受容体の関与を中心に、腫瘍形成を巡る癌細胞と宿主の攻防における低pHの役割を解析した。個体レベルの腫瘍形成とOGR1ファミリ-: B16F10、LLC1あるいはPAN02細胞をプロトン感知性受容体欠損マウスの皮下に移植した後の腫瘍重量を測定した。その結果、TDAG8欠損マウスでは野生型マウスと比較してやや抑制的、ほとんど無効(LLC1の場合)、あるいは促進的な傾向がみられた(PAN02の場合)。また、OGR1欠損マウス、GPR4欠損マウスでの知見を考慮すると、がんの種類によるプロトン受容体の関わりの違いがあることが示唆された。マウスマクロファージを用いたM1/M2変化とpH環境:マクロファージにはTDAG8が著明に発現している。そこで、細胞外pH低下がM1やM2タイプのサイトカイン産生にどのような影響をもたらすかを調べた。その結果、細胞外pHが7.6から6.8に低下するとM1マーカー(iNOS, TNF-α, IL-1β, IL-6, IL-12)はいずれも低下し,一方、M2マーカー(arginase,Clec7a, Ym-1, IL-10)はいずれも増加することが、mRNAレベルで判明した。TDAG8欠損マウスから調製したマクロファージでは、LPSで刺激したマクロファージでは細胞外pH低下の作用を抑制するのに対して、INF-γ存在下ではTDAG8欠損の効果は観察されなかった。また、M2マーカーの細胞外pH低下による促進作用はTDAG8欠損の影響を受けなかった。このように、M1-M2のフェノタイプ変化は細胞外pHで変化をうけ、その一部の作用にTDAG8の関与が示唆されたものの、この受容体だけでは説明されない機構の存在が示唆された。
|