研究課題/領域番号 |
23659033
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
一條 秀憲 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00242206)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ストレス応答 / シグナル伝達 / 線虫 / 緑膿菌感染 / MAPキナーゼ / ASK1 |
研究概要 |
本研究は、線虫を用いたゲノムワイドRNAiスクリーニングによって、ASK1-p38 MAPキナーゼシグナル伝達系の活性制御因子として新たに同定した脂質代謝酵素Xの解析を通じて、生体膜脂質が担うストレス応答機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、RNAi法により、脂質代謝酵素Xの機能を低下させた線虫を用いて、そのストレス応答に対する抵抗性を検討した。ASK1遺伝子を欠損した変異体線虫は、酸化ストレス、小胞体ストレス、緑膿菌感染など様々なストレス負荷に対して脆弱性を示すことが明らかとなっている。Xをノックダウンした線虫において、小胞体ストレスならびに緑膿菌感染抵抗性を検討した結果、ASK1変異体線虫同様、脆弱性を示すことが明らかとなった。Xをノックダウンした線虫において、さらに、p38のホスファターゼであるVHP-1をノックダウンして、p38を活性化すると、緑膿菌に対する脆弱性が一部回復した。一方、ASK1変異体にXのノックダウンを行った結果、さらに脆弱性が亢進した。これらの結果から、Xは、ASK1-p38経路と、一部別の経路も介して緑膿菌に対して抵抗性を付与していることが示唆された。さらに、哺乳類培養細胞に発現させた、Xの哺乳類相同分子とASK1との共免疫沈降実験を行い、XとASK1が結合することを見いだした。よって、Xは、種を超えて保存された、ASK1の活性制御因子であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた脂質代謝酵素Xのノックダウン線虫を用いて小胞体ストレスや緑膿菌などのストレス抵抗性試験を行い、予想通り、ASK1変異体線虫と同様、脆弱性を示すことを明らかにすることができた。また、哺乳類培養細胞系を用いた実験系も一部先行して解析を始めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、哺乳類培養細胞における脂質代謝酵素Xのノックダウン系を用いて、ストレス刺激依存的なASK1-p38シグナルの活性化に対するXの必要性を検討していくとともに、XによるASK1活性化の分子機構を生化学的・分子生物学的手法を駆使して明らかにしていく予定である。また、Xが産生する脂質成分YのASK1活性化への影響も同時に検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は線虫を用いた分子生物学的解析に加えて、哺乳類培養細胞を用いた生化学的解析の割合を拡張する予定である。そのため研究費の多くを生化学実験試薬の購入に充てる予定である。具体的な実験計画としては、まず脂質代謝酵素Xの内在性分子を検出するため、当研究室で確立されているラットリンパ節法によるモノクローナル抗体の作製を行う。脂質代謝酵素Xがどのようなストレスに応答してASK1-p38経路を活性化しうる因子であるかを検討するために、siRNAにより脂質代謝酵素Xをノックダウンした哺乳類培養細胞に、酸化ストレス、小胞体ストレス、病原体感染など、ASK1の活性化刺激として知られる各種の刺激を加え、ASK1の活性化に対する脂質代謝酵素Xの必要性を検討する。また、脂質代謝酵素Xの欠失における脂質成分を解析することで、Xが産生する脂質Yや、他の生体脂質の変動を確認するとともに、その脂質変化のASK1-p38経路活性化に対する影響を検討する。またモノクローナル抗体によりマウス組織染色を行うことで、どのような組織・部位で発現しているかの検討を行い、脂質代謝酵素Xの生理機能についての情報を得る。また、新たにバイオクリーンベンチを導入することで、哺乳類培養細胞系による解析の効率を挙げることを計画している。
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