研究課題
本研究では、まずマウス小脳プルキンエ細胞をモデル系として、外因性の活性酸素種(ROS)および加齢(内因性ROS)によりリアノジン受容体(RyR)が酸化修飾を受けることで、NO依存的Ca放出(NO-induced Ca release; NICR)が阻害されることをイメージングおよび生化学的手法により確認することを目的とする。さらに培養細胞系を用いて、酸化修飾によるNICR阻害において決定的な役割を果たすアミノ酸残基を同定し、将来的には、ROSによる機能阻害が起こらないようアミノ酸置換を導入したCa2+放出チャネルを発現するノックインマウスを作成し、加齢もしくはROSによる分子・細胞・組織・個体レベルでの生体機能低下を防御できることを示すとともに、寿命への影響についても調べることを視野に入れている。H23年度の研究により、外因性ROS及び個体の加齢によりプルキンエ細胞のNICRが阻害されること、さらにNICRの阻害に伴い、RyRのNOによる化学修飾であるS-ニトロシル化が阻害されることが明らかになっていた。H24年度は、外因性ROSおよび個体の加齢によりRyRに酸化シグナルによる化学修飾であるジスルフィド化が蓄積することを生化学的に示すこと、NICRに必要なRyRのシステイン残基とジスルフィド結合を形成することで、酸化シグナルによるNICRの阻害において決定的な役割を果たすシステイン残基を同定することを目標として研究を進めた。研究代表者は、ジスルフィド結合を特異的に還元し、ビオチンでラベルすることで生化学的に検出する方法を確立し、外因性酸化シグナルにより、NICRが阻害されるとともにRyRのジスルフィド結合が増加することを明らかにした。さらに、NICRに必要なシステインとジスルフィド結合を形成し、NICrの阻害に関与するシステイン残基の同定に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
H24年度の研究における最も大きな進展は、研究実績の概要にもあるように、NICRに必要なRyRのシステインとジスルフィド結合を形成し、NICRの阻害に寄与していると考えられるシステインを同定できたことである。RyRは約5000個のアミノ酸より構成される巨大な分子であり、約100個のシステインを含むとされている。したがって、これらのシステインを一つずつアラニンに置換した変異型RyRを培養細胞に導入し、それぞれについて酸化シグナルによるNICRの阻害が解除されるかどうかをイメージング法を用いて調べてゆくことでジスルフィド結合を形成するシステインを同定することは、多大な時間を要することが予想され、H24年度以内に目的のシステイン残基を同定することは困難であると予想されていた。しかし幸運にも、比較的初期の段階で、或るシステインをアラニンに置換したところ、その変異型RyRが酸化シグナル抵抗性を有することを示すデータが得られ、H24年度内に目的とするシステインが同定された。また、生化学的手法によりRyRのジスルフィド結合を検出する方法の確立にも成功した。解析に用いる予定だった老齢マウス個体が死んでしまったため、老齢個体の小脳RyRにおけるジスルフィド結合の増加を、この新たに確立した手法を用いて検出できなかったのは残念であるが、本研究計画全体において最も律速段階になると思われる研究が大きく進展したことの意義は大きいので、自己評価を当初の計画以上に進展していると表現しても差支えないものと判断した。
本研究の目的は、RyRを介するNICRが個体の加齢や外因性の酸化シグナルにより阻害を受ける原因が、NICRに必要なRyRのシステイン残基が酸化シグナルによりジスルフィド結合を形成することでNOによるS-ニトロシル化を受けれなくなることにあるという仮説に基づき、酸化シグナルによるRyRのS-ニトロシル化の阻害とジスルフィド結合が増加すること、およびNICRに必要なシステインとジスルフィド結合を形成するシステインをアラニンに置換し、酸化シグナル存在下でもジスルフィド結合が形成されない変異型RyRは、酸化シグナルによりNICRが阻害されないことを示すことにある。H23年度、H24年度に行われた研究により、RyRのS-ニトロシル化修飾とジスルフィド結合を生化学的に検出する方法を確立した。さらにこれらの方法を用いて、外因性の酸化シグナルによりRyRのS-ニトロシル化が阻害されるとともに、RyRのジスルフィド結合が増加することを示している。そこで、計画最終年度であるH25年度は、個体の加齢に伴い、RyRのS-ニトロシル化の阻害が進行するとともに、RyRのジスルフィド化の蓄積も進行することを生化学的に示す。さらに、NICRに必要なRyRのシステインとジスルフィド結合を形成し、酸化シグナルによるNICRの阻害に寄与すると考えられるシステインが同定されたことを受けて、この変異型RyRにおいては、酸化シグナルによるNICRの阻害が見られないことと対応して、酸化シグナルによるS-ニトロシル化の阻害とジスルフィド結合の増加が見られないことを示し、NICRの酸化シグナルによる阻害の分子機構が、ジスルフィド結合形成によるS-ニトロシル化の阻害にあることを明らかにすることを目指す。
上述の研究の推進方策に基づき、H25に行われる研究は、生化学的手法によるRyRのS-ニトロシル化およびジスルフィド化の検出、およびカルシウムイメージング法による酸化シグナルのNICRへの影響の解析が中心となる。したがって、H25にはこれらの解析に必要となる薬品が多量に必要となるため、そのための費用を多めに計上する必要がある。また、解析の対象となるのは、老齢マウス個体および変異型RyRを発現させた培養細胞となるので、マウスおよび培養細胞の購入や維持のための費用も必要となる。さらに、H25年度は計画最終年度になるため、国内外の学会における発表を中心とした、外部発表を行い、その成果を国民、さらには世界に向けて広く発信してゆくことも重要視している。したがって、外部発表のための出張旅費や学会参加費、論文投稿費などの経費も必要となるため、これらの経費の使用を計画している。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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