研究課題
申請者は本年度本研究課題で目的とした「リガンドと受容体の相互作用」「リガンド-受容体-相互作用タンパク質」「in vivoでのモデル検証」のうち第一項目について一定の知見が得られた。PyMol (DeLano Scientific, San Carlos, CA)を用いて化合物の構造を記述した。受容体の活性化状態構造のテンプレートとしてウシロドプシンの構造からGPR40のホモロジーモデルを作成した。化合物とGPR40のモデルのドッキングの計算時に、Molegro Virtual Docker software (Molegro ApS, Aarhus, Denmark)を導入した。リガンドの結合部位は同ソフトウェアのMolegro cavity detection algorithmによる。また、GPCRと化合物の間の相互作用エネルギーとして、水素結合のエネルギーを指標とした。各化合物の実際の活性としてGPR40発現細胞に対するERKの活性化を指標に用いた。以上により各種脂肪酸および脂肪酸類縁体、新規合成化合物計47種類を対象にERKの活性化を測定し、ドッキングシミュレーションによる水素結合エネルギーの計算が可能となった。この結果、ERKの活性化の計測値と水素結合エネルギーの間の高い相関が判明し、化合物GPR40に対して選択性をもつ新規化合物NCG75が得られた。天然の脂肪酸の中ではαリノレン酸が最も高い活性を有していた。以上から新規の化合物の活性をin silicoで系統的な予測、高活性が期待される化合物の購入又は合成によって、各脂肪酸受容体に対する特異な新規化合物NCG75を得られた。NCG75をスクリーニング系、評価系で詳細に検討し高活性の化合物を得ると共に、それを元にin silicoの活性予測と実際の活性測定を繰り返し行い、さらに最適化を進めることが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
受容体に対して選択性を有する化合物の予測手法を確立するとともに、他の受容体タンパク質の機能解析手法として広く適用可能な汎用性を持った技術であるドッキングシミュレーションの精度を向上させた。さらに、GPR40、GPR120のそれぞれに対して選択性を有する化合物のスクリーニングをドッキングシミュレーションを用いて探索することが可能となった。その結果として、GPR120に選択性の高いNCG21、GPR40に選択性の高いNCG75を見出すことに成功した。GPR120に対して選択性を有する化合物の開発は各社で進められているが、モデル化と詳細な実験を組み合わせた検討を行っている例はあまりない。新規化合物について、in vivoのレベルまでの作用を検出できたことは、今後の遺伝子機能解析手法として一般化しうるモデル化手法の研究を進める上できわめて有益であるといえる。
本研究を通して、受容体に対して選択性を有する化合物の予測手法が確立できた。今後、効率的に化合物のスクリーニングを行えることが期待される。現在検討中の新規化合物の作用の評価を継続する。そのために、受容体活性化を組み込んだモデルを諸条件の変化によって現れる表現型を再現した予測結果と、特異的化合物と遺伝子改変動物を組み合わせたin vinoでの実験結果を比較検討し最適化することによって、リガンド-受容体間の相互作用を解析することが欠かせない。同時に、GPR120の新たな発現部位およびその生理的な機能に基づく新たな評価の検討も必要である。
細胞を取り扱う実験などを行う際には、相当量の試薬や器具が必要となる。研究の実験に必要な設備は既に所属研究室にて設置済みであるが、これらの消耗品購入費は研究を実施するにあたって不可欠な経費となる。細胞培養などの実験操作・シミュレーションのためのプログラム作成・データ処理の多くの部分は研究補助員が行う予定であるため謝金の経費が必要である。本申請の成果は国内学会で発表する事を予定しており、関連する研究分野の研究者との打ち合わせなども必要となる。
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Nature
巻: 483 ページ: 350 354
10.1038/nature10798.