申請者はこれまでに酸化ストレスによる神経細胞死とそれに続く神経変性疾患発症機構について解析し,一酸化窒素(NO)によるニトロソ化ストレスによる蛋白質の酸化が小胞体機能の破綻を惹起し,これが神経変性疾患発症にリンクする可能性を世界で初めて証明した.これらの成果から,蛋白質の酸化修飾を効率よく検出することが可能ならば,これまでまったく開発されていない科学的な根拠による孤発型神経変性疾患の早期診断に繋がる可能性が推定された.パーキンソン病などの神経変性疾患は今なおその詳細な発症機構は不明であり,簡便な早期診断法や根本的治療法は確立されていない.今回このオリジナリティの高い抗体を利用して,生体試料中の酸化型蛋白質を簡便にモニターする系ならびに酸化型蛋白質を特異的に還元する薬物のスクリーニング系,の開発を目指した. その結果.還元型PDIにはまったく反応せず,酸化型PDIのみ特異的に認識するヒト型抗体を10クローン単離に成功し,このうちの2クローンに関してさらに解析を進めた.HEK293T 細胞を生理的NOドナーである S-ニトロソシステインや 過酸化水素で各時間処理した後,細胞質画分に対して酸化 PDI 抗体を用いて免疫沈降反応を行った.沈降物を SDS-PAGE で分離し,抗 PDI 抗体を用いてウエスタンブロット解析を行ったところ,時間依存的なバンドが検出された.このことから,本抗体が酸化ストレス刺激による酸化 PDI を特異的に認識することが確認された.以上より,PDI のSNO 化およびスルホン酸化修飾は酵素活性に重要なチオレドキシン様ドメインのシステイン残基で起こっていることが明らかとなった.本抗体を用いて内在性 PDI の酸化を検出することが可能となり,今後,病態モデル動物などを用いて疾病発症との因果関係を調べ,新規抗酸化薬のスクリーニング系にも応用する予定である.
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