研究課題
生体内のアミノ酸は,蛋白質の構成成分としてだけでなく,細胞内シグナル伝達経路を活性化する細胞外リガンドとしても働いている.生体内のアミノ酸バランスの破綻と様々な疾患との関連が示唆されているものの,両者を直接結びつけるアミノ酸の標的分子は見つかっていない.我々は最近,プロリンなど特定のアミノ酸で活性化されるカチオンチャネル(Proline-Activated Channel:PRAC)を同定した.ラット心線維芽細胞にL-プロリンを処置すると,濃度依存的なCa2+濃度上昇が観察され,この応答はPI代謝回転阻害薬では抑制されなかった.薬理学的解析および電気生理学的解析の検討結果から,PRACは電位非依存性の直線に近いI-V曲線を示し,既知のチャネル(TRP)と複合体を形成する可能性が示された.全アミノ酸(D体も含む)に対するCa2+応答性を調べた結果,プロリン以外にもL-ハイドロキシプロリンやアラニンによっても活性化されることがわかった.さらに,PRACを過剰発現させた心線維芽細胞ではコラーゲンやフィブロネクチンなどのマトリックスmRNA量が低下していること,カルシニューリン阻害剤処置によりコラーゲンmRNA量の低下がキャンセルされることが明らかになった.以上の結果は,PRACが細胞外マトリックス代謝制御において重要な役割を果たす可能性を示している.
2: おおむね順調に進展している
アミノ酸作動性チャネルの分子実体を同定し,その生理的意義として細胞外マトリックス代謝制御に関与することを見出したのは大きな進歩である.しかし,PRACのアミノ酸感知機構については未だ解明できておらず,特にパートナー蛋白質との複合体形成がアミノ酸感受性を獲得するのに必要であるかどうかについて今後より詳細に解析していく必要がある.
次年度予定していた病態との関連よりも,PRACのアミノ酸感知機構解明に力点を置いて検討を行う.具体的には,他のカチオンチャネルとの相同性検索などからPRACのアミノ酸感知ポア領域を同定し,アミノ酸の点変異による影響を観察する.また,PRAC特異的な抗体を作成し,内因性PRACの発現分布などについても確認する.さらには,PRAC遺伝子欠損マウスを作成し,特に心血管系における表現型の比較観察を行う.野生型マウスとの間に有意な差が認められた場合は,病態モデル(圧負荷や心筋梗塞・アンジオテンシンII持続投与など)との掛け合わせを行い,病態生理学的意義も明らかにしていく.
研究費は90%を消耗品費として使用し,残りの10%を共同研究打ち合わせ(電気生理解析など)に用いることにする.消耗品の主な項目としては,実験動物費,細胞培養器具類,酵素類,抗体・キット類が含まれる.
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