研究課題
【目的】貪食は、生体内の恒常性を維持するうえで重要な役割を果たしている。これまでの報告から、貪食過には3つの経路(Abl/ Abiシグナル経路、WLMO/ DOCK180/ Racシグナル経路およびABC/ MFGF10/ GULP/ dyanaminシグナル経路)が明らかにされている。受容体キナーゼは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の活性調節を行うとのみ考えられてきた7種のサブタイプからなるリン酸化酵素(GPCRキナーゼ:GRK)である。我々は、貪食にGRK6が関与することを予備検討で見出した。本研究では、受容体キナーゼの貪食過程への関与を明らかにすることを目的とする。【実施計画】GRK6の貪食における役割を明らかにするために以下の実験を行った。(1)これまでに報告されている3つの貪食経路との関係について検討し、GRK6はこれらのいずれの経路とも独立していることが明らかになった。(2)GRKと結合する分子としてGIT、α-PIXおよびβ-PIXが報告されていることから、GRK6による貪食促進作用に対するGITの関与を検討した。その結果、GITのcoiled-coilドメインが必要なことが明らかになった。(3)GRK6の貪食への関与はGRK6のキナーゼ活性依存性に発現する。したがって、そこで、GRK6によってリン酸化される基質をプロテオミクスのアプローチより探索した結果、Ezrin/Radixin/Moesin(ERM)のリン酸化に変化が観察された。(4)貪食時に貪食される部位にGRK6が集積することを、GRK6にTFPを用いたTime-lapses顕微鏡を用いて経時的に観察し、GRK6が集積してくることを示した。GRK6が新しい経路で貪食に関与していることが明らかになった。今後、この生理的な意味についても解析する。
2: おおむね順調に進展している
GRK6が貪食に関与しているか検討し、次のような結果を得た。(1)これまでに報告されている3つの貪食経路に関与する分子それぞれに対するドミナントネガティブ体あるいはRNAiを用いたノックダウンにより、すでに知られている3種の経路とは独立して貪食を仲介していることが明らかになった。(2)GRK6と相互作用する分子としてGITに注目し、GITのcoiled-coilドメインがGRK6の貪食に必要なことを見出した。(3)GRK6による貪食はGRK6のリン酸化活性依存性に発現する。GRK6によってリン酸化される基質をプロテオミクスのアプローチより探索し、細胞骨格系に関与するERMファミリーのリン酸化が変化することを見出した。(4)アポトーシスを起こした細胞が細胞表面に結合すると貪食に関与する分子が集積してくるはずである。貪食時の貪食される部位にGRK6が集積することを、GRK6に蛍光タンパク質(TFP)を用いたTime-lapses顕微鏡を用いて経時的に観察し、集積してくることを示した。(5)貪食の過程は最終的にはRacの活性化を引き起こされ、アポトーシスを起こした細胞を細胞内に取り込む。Racのドミナントネガティブ体を発現させるとGRK6による貪食促進効果は消失した。したがって、GRK6の下流にはRacが存在していることが明らかになった。また、貪食が生じる際に、Racの活性化が起きていることを活性型Racのpull-down法により示した。GRK6はこれまでとは異なる貪食経路を仲介しているにもかかわらず、最終的にはRacの活性化を引き起こすことが示された。(6)マウス個体より調製したマクロファージにおいても、GRK6が貪食を仲介していることが示された。
平成24年度は以下のことを行う。(1)ERMとは別のGRK6のリン酸化基質の同定法を行うIn Vitrogen社のProto Arrayを用い検討する。これは、数1,000種のヒトのタンパク質のリン酸化を一気に解析できるというキットである。Proto Arrayを精製したキナーゼと[32P]ATPでインキュベートすることで、リン酸化タンパク質を同定するものである。得られた基質が実際貪食に関与していることは、siRNAによりノックダウンさせた細胞での貪食を検討することにより行う。この2つのアプローチにより、GRK6のリン酸化基質を同定できる。使用する精製したGRK6は市販品を利用する。(2)NIH-3T3細胞ではなく生体内の貪食の大部分をつかさどる骨髄由来のマクロファージでもGRK6が貪食に関与していることを示す。これにより、GRK6を介したシグナリング経路の生理的重要性を示すことができる。野生型およびGRK6ノックアウトマウスから骨髄を採取し、M-GSF存在下にマクロファージに分化させる。これら2種のマクロファージの貪食能を測定し、GRK6の役割を検討する。GRK6のノックアウトマウスは既に入手している。(3)入手しているGRK6のノックアウトマウスを長期にわたって飼育し、自己免疫疾患のマーカー分子の血中濃度を測定する。これらの結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
上記計画の実験を行うためには、動物の購入および試薬などの消耗品の購入が必要である。また、得られた成果を発表するために、学会参加への旅費およびさまざまな事務処理の補助に対しての謝金に用いる。
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Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.
巻: 31(10) ページ: 2278-2286