研究課題
出芽酵母[PSI+]はプリオン同様遺伝子に由来しない遺伝形質であり、その表現型が翻訳終結因子eRF3のNドメインに存在するプリオンドメインを介した凝集性に起因すること、およびその生成される凝集体がアミロイドーシスの病態に見られるものと共通の性質を持つことが知られている。また、[PSI+]と[psi-]は、酵母がYPD培地上で形成するコロニーの色の変化により視覚的に判別することができる。本研究では、酵母eRF3のプリオンドメインをヒトプリオンPrPに置き換えた酵母を作製し、プリオン病の酵母病態モデル系を確立するとともに、これらの酵母株を用いて、従来の方法より簡便かつ迅速な抗プリオン薬のスクリーニング系の開発を行うことを目的として研究を行った。本研究ではまず酵母プリオン[PSI+]株を用いてスクリーニングの条件を確立しその有効性を示した。またヒトプリオン病の酵母モデルを作製するために、酵母eRF3のプリオンドメインをヒトPrPのプリオンドメインに置き換えたキメラタンパク質を発現する酵母株を作製した。その酵母株の大部分は[PSI+]へと変化し、グアニジン処理を施すと、eRF3-PrP発現により新たに出現した[PSI+]形質は[psi-]へと復帰することが観察された。一方、復帰したeRF3-PrP発現株からは再び高頻度に[PSI+]株を誘導できることを確認した。また、eRF3-PrP発現プリオン株は生育毒性がないことからスクリーニングに使用する際は通常の酵母と同様に取り扱うことができることも明らかにした。以上のように、本研究において作製したeRF3-PrPを発現する改良型[PSI+]株がヒトプリオン病の病態モデルとしてプリオン病治療薬のスクリーニング系開発に応用できることを実証した。
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