研究課題
ビタミンKは、そのキノン構造の酸化還元サイクルを利用し、血液凝固系においてグルタミン酸残基のγ-カルボキシル化を触媒する補酵素として知られている。一方、近年ビタミンKが核内受容体SXRのリガンドとして遺伝子レベルで細胞機能に関与することや、腫瘍細胞の増殖を抑制することなどが明らかになる等、多彩な生理作用を持つことが示されてきた。本研究では、従来理解されてきたVKの生理作用とは異なる生物作用の解明と医薬開発への応用基盤を構築することを目的とする。本年度は以下の3項目を行った。1)ビタミンKの側鎖上の代謝的化学変換体が活性本体であるとの仮説に基づき、側鎖の官能基化を検討した。本年度は、ナフトキノン骨格に短い側鎖を有する化合物をモデル化合物として、種々の側鎖官能基化の反応条件を詳細に検討した。本知見をもとに、より長い側鎖の官能基化が可能である。2)ナフトキノン環の酸化還元サイクルは、ビタミンK活性のうちγ-カルボキシル化における重要性は知られているものの、その他の活性での生理的意義は不明である。そこで、ナフトキノン環を他の縮環構造として、酸化還元サイクルを起こさない誘導体を設計、合成した。具体的には、ナフトキノン環を、平面性および適度な堅固性と柔軟性を有する環状アミド構造に代替した化合物を種々合成した。3)以上の合成化合物について、種々の腫瘍細胞に対する増殖抑制能を検討したところ、幾つかの化合物に高濃度ではあるが腫瘍細胞の増殖抑制効果が認められた。
2: おおむね順調に進展している
ビタミンKはビタミンとしての研究は進んでいるものの、その医薬化学的研究は立ち後れている。これまでに化学合成された誘導体の数も少なく、また化学的に不安定で取り扱いの難しいものが多い。本研究では、このような状況を踏まえ、ビタミンKの有機化学的、医薬化学的基礎知見を得ることを第一の目標とし、その結果をもとに、各種誘導体の創製、ビタミンKの生理的、薬理的機能解明を目的としている。本年度は、ビタミンKの誘導体化の各種条件を検討し、多くの化学的情報を得ることができた。本知見をもとに、来年度以降、様々な誘導体の創製が可能である。また、新規骨格を有する誘導体に弱いながらも抗腫瘍効果を見いだした.本知見は、新たな構造展開に有用である。以上の成果から、本研究は概ね順調に進んでいると考えている。
平成23年度に得た化学的知見をもとに、各種ビタミンKの誘導体、特に側鎖に各種の官能基を導入した化合物の合成を行う。一方、環状アミド構造という新規骨格を持つ化合物にビタミンK同様の抗腫瘍効果を見いだしており、その構造最適化を図るとともに、更なる骨格変換を行う。生物活性評価としては、抗腫瘍効果以外のビタミンK活性評価系を構築し、合成化合物の作用特性を明らかとする。
本年度は、主に、化合物の合成と精製、及び、これらの生物活性評価を行う。そのために、一般有機合成試薬、有機溶媒(スペクトル用を含む)、生化学試薬、ガラス器具等の経費を必要とする。また、ビタミンKに関連する情報収集のための国内旅費を必要とする。
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