抗体医薬の生産における問題点(高コスト、生産設備の柔軟性の不足)を克服する方策として、葉野菜を用いた抗体の生産をめざした。粘膜表面への適用(病原体やアレルゲンの侵入阻止)を目的とし、抗原特異的な分泌型IgA抗体遺伝子をリーフレタスに発現させ、可食性植物抗体の作製を目標とした。腸管出血性大腸菌由来のベロ毒素に対する高い結合親和性を有するIgGモノクローナル抗体の可変部を利用し、IgAモノクローナル抗体の定常部を連結させたハイブリッドIgAのH鎖のcDNAを作製した。植物由来のプロモータを利用し、ハイブリッドIgAのH鎖、IgGモノクローナル抗体由来のL鎖、IgA由来のJ鎖cDNAを一度に導入できるバイナリーベクターの構築を進めた。H鎖、L鎖、J鎖の3者を発現したモデル植物シロイヌナズナを作製し、ベロ毒素に対する中和活性のある植物抗体の作製に成功した。さらに、同じバイナリーベクターを、アグロバクテリウム法にてリーフレタスの子葉に導入を試みた。カナマイシンによる薬剤選択および植物ホルモンによる誘導によってカルスを得た。シュートの形成および発根を行った後、選抜の完了したリーフレタスを4個体得て培養土にて育成した。レタスの葉のDNAをPCR法で分析し、抗体のL鎖、J鎖のレタスゲノムへの組み込みを確認した。さらに葉の抽出物に含まれるIgA抗体がベロ毒素に結合することをELISAで検出できた。 一方、応用として、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに対するIgG抗体の可変部をIgA抗体の定常部に連結したハイブリッドIgAのH鎖遺伝子を作製した。抗体のH鎖、L鎖 (IgG由来)、J鎖をCHO細胞に遺伝子導入して組換え型2量体ハイブリッドIgAを作製した。ハイブリッドIgA抗体によるインフルエンザウイルスに対する中和活性を確認した。
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