本研究では、実質細胞内での薬剤の代謝活性化反応に加えて、薬剤曝露により誘発された肝非実質細胞からの炎症シグナルが、肝実質細胞への刺激となり、これらの反応が相加・相乗的に作用することで肝細胞傷害が起こるのではないか、そして、非実質細胞における薬剤誘発性の炎症シグナルの惹起に、異物応答性の核内受容体が関与するのではないかとの作業仮説を立て研究を行ない、以下の結果を得た。 化学物質の肝非実質肝細胞への影響について、炎症関連因子に着目して解析するため、ラットのクッパー細胞を、各種異物応答性核内受容体(PXR、CAR、LXRalpha、PPARalpha、PPARgamma)のリガンドで処置し、mRNAレベルの変動を炎症関連遺伝子解析用PCRアレイ(Qiagen)を用いて調べた。その結果、炎症関連遺伝子の発現プロファイルは、リガンド特異的に変化することが明らかになった。 ヒトで肝障害を起こすことが知られている薬物について、炎症と関連する核内受容体(PXR、LXRalpha、PPARalpha、PPARgamma)への作用をインビトロ活性化の評価系を用いて解析した。その結果、複数の肝障害性薬物は、PPARalphaやPPARgammaを活性化することが明らかになった。これらの薬物を、肝癌由来HepG2細胞やホルボールエステル処置によりマクロファージ様細胞に分化させたTHP-1細胞に暴露し、PPARalphaおよびPPARgammaの標的遺伝子の発現変動を解析したところ、薬物により発現が誘導される標的遺伝子の種類に差が見られ、PPARはリガンド依存的に異なる標的遺伝子の発現を亢進する可能性が示された。
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