研究課題/領域番号 |
23659074
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浜本 洋 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90361609)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | カイコ / 薬物動態 / シトクロームP450 / 抗生物質 |
研究概要 |
我々は、カイコの病態モデルを用いて治療効果を指標とした医薬品候補薬の探索法を提唱しており、実際に細菌感染させたカイコを全身評価のモデルとして、マウスモデルでも治療効果を示す新規抗生物質の発見に成功している。本研究では、カイコにおける薬物動態を明らかにし、全身評価モデルとしての基盤を確立することを目的としている。研究代表者らは、これまでにモデル薬物である7-エトキシクマリンについて、腸管でシトクロームP450による代謝を受けることを明らかにしている。さらに、当該年度において、ヒトのシトクロームP450によって代謝されることが知られている化合物Luciferin-CEE, ME, IPA, PFBE, BE、及びフェナセチン、オメプラゾール、アミノピリン等について、カイコの腸管においても同様に代謝されることを明らかにした。また、カイコの一次代謝の場であると考えられる腸管において、シトクロームP450遺伝子の発現をRT-PCRによって検証した結果、特異的に発現している5つの遺伝子を発見した。 従って、カイコにおいても、大部分の化合物は哺乳類と同様にシトクロームP450によって代謝され、そのカイコにおける代謝の場は腸管であると考えられる。 次に、いくつかの抗生物質をカイコの体液に注射後血中濃度を測定し、その薬物動態パラメーターを解析した結果、ヒトと同様に2-コンパートメントモデルで説明されうる血中濃度推移を示し、定常状態時の分布容積が哺乳類の場合とほぼ一致することが判明した。このことが、抗生物質がカイコでヒトと同様な治療効果を示す上で重要な要素になっている可能性がある。さらに、本年度においてカイコが代謝できないカフェインを分解するヒト型シトクロームP450を導入したカイコの樹立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初研究計画通りに、カイコにおける薬物動態、及び代謝経路について解析が進んでいる。また、すでにヒト型シトクロームP450発現トランスジェニックカイコの樹立に成功し、その解析についても着手しているなど、当初の研究計画より進んでいる点もあることから判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の成果を元に、カイコの腸管組織培養系で代謝される代謝産物について、培地中から化合物を有機溶媒などによって抽出し、HPLCによってその代謝物の同定を行い、質量分析計などによって構造を推定する。また、前年度までに樹立したヒト型シトクロームP450発現トランスジェニックカイコにおいて、 組織を分離し、薬剤の代謝活性がみられるか否か検討する。その後、薬剤を体液中へ注射し、薬物動態(半減期等)や代謝反応がヒトと類似しているか否か検証する。さらに、抗生物質の薬物動態についてさらに検証を進め、カイコにおけるPK/PDパラメーターと薬効との相関について検証する。以上の研究の推進により、創薬の早い段階での全身評価モデルとしての、カイコモデルの有用性について、その基盤を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では、トランスジェニックカイコの遺伝子型を見分けるのに必要な顕微鏡を購入する。トランスジェニックカイコには胚の段階で挿入されている蛍光タンパク質のマーカーが発現し、それを蛍光顕微鏡で観察することで、個体の遺伝子型の区別が可能である。また、実験に用いるカイコの購入費、及び飼料、薬物の代謝物や体内動態を解析するのに必要なHPLC用のカラム、及び溶媒、それに関連する試薬の購入に充てる。
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