前年度に引き続き、カイコ腸管における薬物代謝について解析を行った。カイコ腸管のミクロソーム画分を調製し、一酸化炭素結合差スペクトルを解析したところ、シトクロームP450に特徴的なスペクトルが得られた。また、調製したミクロソーム画分において、Luciferin化合物の代謝が確認できた。これらの結果と、前年度得られた結果から、カイコに投与された薬物は、腸管のミクロソーム画分で代謝されると考えられる。さらに、複数の薬物について、カイコ腸管における代謝物を検討した結果、哺乳動物と同じ代謝物は見いだされなかった。この結果から、カイコのシトクロームP450の反応機構は、哺乳動物のものと異なると考えられる。従って、カイコは、これまでにない新しい構造の化合物を得るためのバイオリアクターとして利用可能であると考えられる。 さらに、前年度に樹立したヒト型シトクロームP450発現カイコを用いて、野生型カイコが代謝できないカフェインが代謝できるか否か検討した。その結果、ヒト型遺伝子を発現するカイコは、発現していないカイコに比べて、カフェインの血中半減期が短くなっていた。また、カフェインを大量に投与すると野生型カイコは成長の阻害が起こるのに対し、ヒト型遺伝子発現カイコは、その副作用が緩和していた。従って、ヒト型のシトクロームP450を持つ、薬物の体内動態を評価するモデルが確立できたと考えられる。 本研究により、カイコにおける薬物動態は、哺乳動物と類似している点があることがあきらかとなった。さらに、細胞毒性を示す化合物の急性毒性は、培養細胞系に比べ、カイコの方が、ラット個体との相関が高いことが示されている。従って、安価で倫理的問題がないカイコは、薬物の治療効果を指標としたスクリーニング等、一次的な薬効評価モデルとして有用であることが示されたと考えられる。
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