研究概要 |
炎症性腸疾患(IBD)は、疾患関連遺伝子の異常と食事や腸内細菌などの環境因子が相まって引き起こされる難治性の疾患である。最近、IBDの病因として、通常小腸にのみ発現するペプチドトランスポータPEPT1が大腸にも発現し、大腸菌由来の炎症性小分子ペプチドを輸送することによって、消化管の炎症に関与することが報告されてきた。本研究では、IBD治療薬として繁用されている5-アミノサリチル酸のアミノ酸誘導体を合成し、大腸に発現するPEPT1の薬物トランスポータとしての特性を逆に利用することによって、薬物送達への応用が可能になるのではないかと考え研究を実行した。 昨年度合成した、10種類のアミノサリチル酸のアミノ酸誘導体のPEPT1に対する親和性を検討するため、PEPT1の立体構造学的特徴を精査した(Terada, Recent advances in structural biology of peptide transporters, Curr. Top. Membr., 70, 257-274, 2012)。その結果、Val誘導体がPEPT1に対して親和性が高いことが判明した。kのシミュレーション結果をin vivoで確認するために、PEPT1の発現の有無による吸収特性の解析が必要である。このため、Pept1遺伝子欠損マウスを導入し、生理的・病態生理学的特徴を精査した。その結果、Pept1遺伝子欠損マウスは、正常に発育・出産することが判明した。今後、野生型マウスとPept1遺伝子欠損マウスによる、10種類のアミノサリチル酸のアミノ酸誘導体の吸収特性を明らかにしていく。
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