研究課題
経皮ワクチンは、理論的に最も優れた"新興・再興感染症に対する予防・治療法"となり得ることから、その開発は現在、地球規模での熾烈な開発競争の真っ只中にある。しかし現状の方法は、抗原の経皮送達効率に乏しく、有効性が殆ど期待できないうえ、安全性にも危惧されるなど、実用化に至った例は無い。一方で申請者はこれまでに、粒子径30~70nmのナノシリカのみが、安全でしかも高効率で経皮吸収され得ること、その際に、ナノシリカに吸着あるいは封入した生体高分子(遺伝子・蛋白質)が皮膚バリアを突破し、皮下免疫担当細胞内へ選択デリバリーされ得ることを見出した。そこで当該研究では、このパイロット知見を活用し、感染症克服に有効であり、そのうえで安全かつ低侵襲、しかも安価な "ナノ経皮抗原送達システム(ナノ経皮ワクチン)" の開発にチャレンジするものである。本年度は、安全かつ効率よく抗原特異的な体液性・細胞性免疫を誘導できる新規経皮ワクチンの開発を目的に、化粧品・食品基材として実用され、生体適合性にも優れた非晶質ナノシリカ粒子などを抗原送達キャリアとして利用することを試みた。経皮塗布によるワクチン開発を念頭に、その前段階として、経皮投与による免疫誘導特性を評価した。その結果、モデル抗原とナノシリカを混合し、皮内投与することで、抗原単独群と比較して有意に免疫応答が増強されることが判明した。また、粒子径や表面特性の異なるシリカ粒子をスクリーニングした結果、100nm以下のナノサイズのナノシリカが効率良く免疫誘導することが明らかとなった。現在、皮膚塗布後の免疫誘導特性を評価するとともに、その安全性についても精査しているところである。本成果は、未だ世界中で猛威をふるう新興・再興感染症など、致死的な感染症に対する新たな方法論・基盤技術などを提供することで、国民の健康と福祉に貢献可能と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、申請者独自の基盤情報をもとに、皮膚塗布後に、効率良く免疫誘導組織・免疫担当細胞内に移行し、皮膚局所・粘膜面・全身面での免疫応答を誘導し得るナノシリカを、物性(サイズ、表面電荷など)に焦点をしぼりスクリーニングし、最適なナノ経皮抗原キャリアの探索・同定を図るものである。さらに安全性に関しても、毒性学的視点から、IgE抗体の産生のみならず、遺伝毒性や生殖発生毒性などを詳細に実施し、安全性と有効性の両面からナノ経皮抗原キャリアとしての最適ナノシリカを探索・決定し、安全かつ有効なナノ経皮抗原送達システム(ナノ経皮ワクチン)の開発に展開しようとするものである。平成23年度は、粒子径・表面特性が異なる様々なシリカを用い最適な抗原送達キャリアとしてのナノシリカ候補をスクリーニングすることを当初の目的とした。その点、「研究実績の概要」にも記載したように、粒子径・表面特性が異なる様々なシリカ(粒子径30、50、70、100nmのナノシリカ、及び直径300、1000nmのサブミクロンサイズの従来型シリカ)を用い免疫誘導特性を評価することで、粒子径100nm以下のナノシリカが効率的に免疫誘導可能であることを明らかとした。さらに平成24年度の予定を前倒しして、ナノシリカのワクチンキャリアとしての安全性評価にも既に着手している。以上から、平成23年度はおおむね順調に進展していると考えている。平成24年度には、平成23年度の成果を基盤として、より精力的に検討を進めたいと考えている。
平成24年度には当初の予定通り、ナノ経皮抗原送達システム(ナノ経皮ワクチン)の開発を目指し、平成23年度に同定した"最適な抗原送達キャリアとしてのナノシリカ"を用い、経皮塗布後の免疫誘導特性を精査する。そのうえで、モデル抗原あるいは腫瘍関連抗原を用いて抗腫瘍効果を評価する。さらに、抗原特異的抗体産生能(投与局所の抗原特異的IgA産生、全身性の抗原特異的IgG産生)や抗原特異的なヘルパーT細胞・細胞傷害性T細胞の誘導特性を評価する。この際、抗原特異的ヘルパーT細胞に関してはTh1・Th2・Th17細胞のバランスを詳細に評価し、ナノ経皮ワクチンの免疫誘導特性のキャラクタリゼーションを試みる。Th細胞のバランス情報は、今後のナノ経皮ワクチン改良指針あるいは安全設計指針として今後の検討に供する。一方でナノマテリアルは、従来までのサブミクロン素材とは異なった体内・細胞内動態特性を有していることから、高度な機能が逆に予想できないリスクを産み出し得る可能性もある。従って、その安全性を高度に保証することで、安全かつ有効なナノ経皮ワクチンを設計せねばならない。そこで、一部は平成23年度に前倒しで実施しているナノ経皮ワクチンの安全性に関して、毒性学的視点から、IgE抗体の産生のみならず、遺伝毒性や生殖発生毒性などを詳細に実施し、安全性と有効性の両面で最適のナノシリカを探索する。また、近年のインフルエンザパンデミックでも見られたように、妊婦はワクチン摂取の最優先者であることから、妊婦・胎児に対する生殖発生毒性評価も必須項目と考えられる。そこで、ナノシリカを妊娠マウス皮膚に塗布後、流産や胎仔発育障害の誘発に関して検討を進め、ナノ経皮ワクチンの生殖発生毒性を精査する。
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Amorphous silica nanoparticles size-dependently aggravate atopic dermatitis-like skin lesions following an intradermal injection
巻: 9:3 ページ: 1-11
10.1186/1743-8977-9-3