経皮ワクチンは、理論的に最も優れた“新興・再興感染症に対する予防・治療法”となり得ることから、その開発は現在、地球規模での熾烈な開発競争の真っ只中にある。しかし現状の方法は、抗原の経皮送達効率に乏しく、有効性が殆ど期待できないうえ、安全性にも危惧されるなど、実用化に至った例は無い。一方で申請者はこれまでに、粒子径30~70nmのナノシリカのみが、安全でしかも高効率で経皮吸収され得ること、その際に、ナノシリカに吸着あるいは封入した生体高分子(遺伝子・蛋白質)が皮膚バリアを突破し、皮下免疫担当細胞内へ選択デリバリーされ得ることを見出した。そこで当該研究では、このパイロット知見を活用し、感染症克服に有効であり、そのうえで安全かつ低侵襲、しかも安価な “ナノ経皮抗原送達システム(ナノ経皮ワクチン)” の開発にチャレンジするものである。平成23年度には、化粧品・食品基材として実用され、生体適合性にも優れた非晶質ナノシリカ粒子を用い、経皮投与による免疫誘導特性を評価し、100nm以下のナノサイズのナノシリカが効率良く免疫誘導することを明らかとした。そこで本年度は、安全かつ効率よく抗原特異的な体液性・細胞性免疫を誘導できる新規経皮ワクチンの開発を目的に、ナノシリカを用い、皮膚塗布後の免疫誘導特性を評価した。その結果、モデル抗原とナノシリカを混合し、皮膚に塗布することで、抗原単独群と比較して有意に免疫応答が増強されることが判明した。また、ナノシリカの表面物性を変化させることで、免疫応答が減弱したことから、適切な表面物性を選択することが必要であることが明らかとなった。本成果は、未だ世界中で猛威をふるう新興・再興感染症など、致死的な感染症に対する新たな方法論・基盤技術などを提供することで、国民の健康と福祉に貢献可能と考えられる。
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