現行の生体膜輸送実験手法から考えて、氷冷下でも機能するトランスポーターが存在した場合には、反応停止・洗浄中に基質の流出が起こり、適切なトランスポート実験が行えない可能性がある。本研究では、このような問題点を克服するために、各種トランスポーターの低温忍容性(氷冷下で機能するかどうかの性質)を解析した上で、全てのトランスポーター機能を停止させる反応停止・洗浄液(汎トランスポーター阻害剤)の探索・開発を目指すことを目的としている。本年度は最終年度でもあり、汎トランスポーター阻害剤の探索・開発に焦点を当てて検討し以下の知見を得た。 汎トランスポーター阻害剤の探索には、赤血球膜小胞系を用い、阻害剤なしでは取り込み後に著しい流出が起こり、輸送活性評価が困難なグルコース(GLUT1基質)、ウリジン(促進拡散トランスポーターENT1基質)を基質として評価した。まず汎トランスポーター阻害剤の候補として、各種タンパク質変性剤(酸、SH基阻害剤、カオトロピック試薬、ジスルフィド還元試薬)を単独で用いた。その結果、尿素、2-メルカプトエタノール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドによって濃度依存的な基質の流出抑制効果が観察されたが、GLUT1やENT1の特異的阻害剤に比べて必ずしも十分な効果ではなかった。そこでこれら試薬を組み合わせた場合の効果について検討したところ、尿素とホルムアルデヒド、2-メルカプトエタノールとグルタルアルデヒドの組み合わせによって、きわめて良好な基質流出抑制効果が観察された。これらの組み合わせ試薬は培養細胞におけるGLUT介在性のグルコース流出にも効果的であり、生体膜や細胞の破壊は起こっていないものと考えられた。従って、これらの組み合わせ試薬は、生体膜輸送実験における汎トランスポーター阻害剤として有効活用できる可能性が示唆された。
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