本研究では免疫細胞への新たな抗原送達法としてポリエチレングリコール(PEG)修飾リポソームによる免疫系の活性化(ABC現象)を利用した方法を提案しようとしている。本提案は、PEG修飾リポソーム投与によって脾臓辺縁帯のB細胞が感作され、数日後に投与したPEG修飾リポソームを捕捉し、速やかに胚中心の樹状細胞に運ぶようになる、という研究代表者らによる極めてユニークな発見に基づくものである。この現象を利用すれば、多量の抗原を効率よく抗原提示細胞に受け渡すことができ、非常に強いアジュバントを開発できる可能性が高い。当該研究期間において、脾臓辺縁体B細胞によるPEG修飾リポソームの輸送現象を利用し、PEG修飾リポソームに封入したタンパク抗原(卵白アルブミン)に対する抗体反応の増強効果について検討した。空のPEG修飾リポソームによる前刺激により、少量の抗原でanti-OVA IgMおよびanti-OVA IgG分泌量が有意に増加した。PEG修飾リポソームはT cell independentな抗原であることがわかっているが、TD抗原を封入することでTI経路の活性化を利用してTD抗原に対する免疫反応を亢進させることがわかった。通常のアジュバントは皮下の抗原提示細胞を利用して免疫増強作用を示すが、本方法は脾臓の免疫系を利用して免疫増強作用を得るものであり、新規なメカニズムに基づくアジュバントとなる可能性が示唆された。
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