遺伝子発現の個人差要因が未解明であるp-糖タンパク質をコードするMDR1遺伝子について、MDR1遺伝子上流約7 Mbpに位置するdifferentially methylation region (DMR)との空間的近接をchromosome conformation capture(3C)法によりヒト肝を用いて3Cライブラリーを作成し解析した。その結果、MDR1発現量の低い検体ではDMRとMDR1転写開始点領域との間に空間的な近接を認めた一方で、MDR1発現量の高い検体では同領域間の近接は検出されなかった。同様の解析をMDR1 exon 1においても行ったが、いずれの検体においてもDMRとの空間的近接は認めなかった。このことから、DMRのMDR1転写開始点への空間的近接がMDR1転写を抑制しており、MDR1遺伝子発現の個人差要因となっている可能性が考えられる。興味深いことに今回解析したDMRはCYP3A4遺伝子から5 Mbp離れた領域に存在し、MDR1遺伝子とCYP3A4遺伝子の間に染色体上位置する。その一方で、MDR1遺伝子とは異なりCYP3A4発現の高い検体ではDMRとCYP3A4遺伝子2 kbp上流領域は高い立体的近接を示した。染色体上の非常に幅広い領域に立体的な近接をもたらすメカニズムとしてコヒーシンが知られている。コヒーシンを構成するRad21は今回解析した領域に複数結合することが予想されている。MDR1とCYP3A4の基質薬物の多くは重複していることから、これら遺伝子発現を効率良く調節するメカニズムとしてコヒーシンによるDMRを介した遺伝子発現調節機構が存在していることが推察される。何故、CYP3A4とMDR1は共通の医薬品を基質とするのか、何故、誘導や阻害にも共通の動態特性が存在するのか。これらの極めて重要な疑問を解決できる糸口が得られたと言える。
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