本研究の目的は、病態時に各臓器における分子時計がどのような因子により、臓器間のネットワークを構築し、相互にコミュニケーションをとっているのかを明らかにすることである。すなわち、慢性腎不全という病態下における各種臓器の時計遺伝子発現リズムを解析し、各臓器における時計遺伝子発現リズムが変化する分子機構を解明し、腎不全時の各臓器間のコミュニケーションに関わる細胞外因子および細胞内因子を同定する。また合併症の予防薬および治療薬の開発を目指す。 自由摂食水、明暗周期(明期7:00~19:00)条件下で2週間飼育したICR雄性マウス6週齢に対し、片方の腎臓を2/3摘出した。さらに1週間後に残り一方の腎臓を全摘出した。腎5/6摘出手術後、6週目から8週目まで経日的に因子X阻害剤を経口投与した。腎5/6摘出手術後、血漿中クレアチニンのレベルおよび血漿中因子Xのレベルを測定した。因子X阻害剤投与14日目のマウスの肝臓からtotal RNA を抽出し、Real time-PCR法を用いて薬物代謝酵素および転写因子の発現量を測定した。 5/6Nxマウスの血漿中クレアチニンおよび因子Xの量に及ぼす因子X阻害剤14日間投与後の影響を検討した結果、血漿中のクレアチニン量および因子Xの量は5/6NxのCMC投与群と比較し因子X阻害剤投与群において、有意に低値を示した。この結果より、因子X阻害剤投与により腎不全の改善が認められ、腎不全の進行に伴い増加する因子Xの発現を抑制することを明らかとした。また、因子X阻害剤投与により腎不全時に認められる肝薬物代謝酵素および転写因子の発現低下を抑制することが示唆された。さらに、因子X阻害剤投与により腎不全時に認められる中枢障害を抑制することが示唆された。本研究結果より、腎不全時の肝薬物代謝機能障害および中枢障害の発症機構として因子Xが原因であることが示めされた。
|