現在の実験設備や実験条件下で精子幹細胞を含む精巣内移植実験を成功しているため、仙台(研究協力者)で初期培養してMuse細胞を試料調整した後に千葉まで移動してW/Wvミュータント雄マウスの精巣内(セルトリ細胞はいるが精細胞がいない状態の精巣内)に移植して、その定着性を検討した結果、分かった点は下記である。1)長距離移動後もMuse生細胞数を十分確保できる。2)移植前にGFP-Muse細胞を移植用培地に入れて長期間浮遊状態に置くと凝集が起こり、注入移植ができなくなる。その原因が移植培地内のアルブミンである可能性が高く、移植用培地にアルブミンを入れずに注入すると効率的に移植できる。3)しかし、移植後3ヶ月おいても精巣内にGFPのシグナルはバックグランド以外に認めらないことから、これまでの調整法でMuse細胞を移植するだけでは、精子細胞分化への誘導はできない。これらを解決するためには次の点を明らかにする必要があった。1)Muse細胞が、始原生殖細胞あるいは精子幹細胞としての性質をどの程度持っているか。2)精巣移植の際に遺伝子導入が必要であるかどうか。3)遺伝子導入せずに、外来性の補助因子のみで十分かどうか。移植に際して補助因子が必要であるか。必要あれば、何が良いか。これらについて種々検討した結果、Muse細胞は自然の精子幹細胞が持っている遺伝子の全てを持ってはいないが、幹細胞が持っている幾つかの遺伝子は既に持っていると推測された。一方、Muse細胞そのままでは精細胞へ分化誘導できないというこれまでの結果を総合すると、次の方針としては注入移植と共に何らの補助因子を補充することが必要になると推測された。それでも成功しない場合は、分化誘導するための遺伝子導入が必要になると思われた。
|