研究課題
大脳皮質は、神経幹細胞が脳室帯において分裂後、中間帯から皮質板へと移動して、先に分裂して移動し定着した神経細胞を追い越していく「inside-out」の様式を取って明瞭な層構造を形成する。大脳皮質の層形成の過程での神経細胞の移動とがん細胞の浸潤・転移の過程は、「接着性の変化」、「形態変化」、「運動性の獲得」を含む点で類似性を示す。近年、低分子量G蛋白質ADPリボシル化因子6(ARF6)による膜小胞輸送経路の制御が、がん細胞の浸潤・転移能の獲得における重要性が明らかになってきた。本研究は、ARF6の神経細胞の移動への機能関与の可能性と分子機構を検討し、ARF6による神経細胞とがん細胞の両現象の分子機構の共通性と特異性を明らかにすることを目的とする。平成23年度は、胎生期14.5日齢のマウス胎児の脳室内にARF6に対する短ヘアピン型RNA発現(shRNA)ベクターを子宮内穿孔法により遺伝子導入し、大脳皮質の層形成への影響を検討した。その結果、生直後の大脳皮質においてコントロールshRNAベクターを発現する神経細胞は、II/III 層よりなる明瞭な帯状に配置するのに対して、内因性ARF6の発現を抑制した神経細胞は、中間帯からII/III 層の間に散在し細胞移動が遅延することが明らかになった。さらに、この神経細胞の移動遅延はshRNA抵抗性ARF6 cDNAとの共発現により消失することより、ARF6に対するshRNAの特異性を確認した。以上の結果より、ARF6が神経細胞の移動を制御する新たな分子経路であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
ARF6の大脳皮質形成過程の神経細胞移動への機能関与を示す本研究における主骨格となる重要所見を初年度に明確に証明した点で、順調に進展しているものと評価できる。
神経細胞の移動を制御するARF6の上流の活性化を制御する因子としてのグアニンヌクレオチド交換因子とGTPase活性化蛋白質の大脳皮質形成過程における発現様式とRNA干渉法による発現抑制による大脳皮質形成への影響を検討する。また、ARF6の下流の効果分子の同定も同時に遂行していく。
大脳皮質の形成過程の神経細胞移動におけるARF6経路の分子経路を解明するために、(1) ARF6の結合蛋白質の同定のための酵母ツーハイブリット法で用いる試薬の購入(2) 生体でのARF6機能解析のための子宮内穿孔法による遺伝子導入に用いる妊娠マウスの購入と飼育費(3) がん細胞や初代神経細胞の培養のための試薬の購入 などに研究費を使用する。
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