研究概要 |
ADPリボシル化因子6(ARF6)は、細胞膜とエンドゾーム間の小胞輸送および細胞膜直下のアクチン細胞骨格の制御に関わる低分子量G蛋白質で、近年、がん細胞の浸潤・転移能の獲得、創傷治癒など種々の細胞における運動性に深く関与することが明らかになってきている。本研究では、大脳皮質形成過程における神経細胞の移動へのARF6の機能関与の可能性と分子機構の解明を通して、ARF6による神経細胞とがん細胞の両現象の分子機構の共通性と特異性を明らかにすることを目的とする。本年度は、ARF6の下流効果分子として知られているホスファチジルイノシトール 4,5-二リン酸(PIP2)の合成酵素であるタイプIホスファチジルイノシトール-4-リン酸-5-キナーゼγ (PIP5KIγ)に着目して神経細胞移動への機能関与を検討した。子宮内穿孔法により胎生期大脳神経上皮細胞にRNA干渉ベクターを導入することにより、移動神経細胞における内因性PIP5KIγの発現を抑制した結果、神経細胞移動の著明な遅延し、大脳皮質の層形成が障害された。また、PIP5KIγの発現抑制された移動神経細胞において、細胞接着斑の構成分子であるfocal adhesion kinaseやtalinの細胞膜への局在が障害されることを免疫組織学的解析により明らかにした。以上の結果より、PIP5KIγが大脳皮質の神経細胞移動の新たな制御因子として機能することを明らかになった。
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