研究課題
卵子の加齢に伴う変化にミトコンドリアに局在するNAD依存性脱アセチル化酵素であるSirt3が関与することを示すため、Sirt3発現の加齢に伴う変動とともに、mRNA顕微注入によるSirt3の過剰発現が卵子の加齢変化に対してどのような効果をもたらすかを解析し、以下の結果を得た。1. 加齢マウス(50週齢)の卵巣では若齢マウス(10週齢)の卵巣に比べてSirt3 mRNAおよびタンパクレベルの低下が認められ、加齢マウスから排卵された卵子でも若齢マウスの卵子に比べてSirt3 mRNAの低下が認められた。2. Sirt3 mRNAの卵子への顕微注入により、過酸化水素処理による卵子の受精後の胚発生率低下が著明に改善した。3. 排卵後の卵子老化(未受精卵の長時間培養による受精後胚発生率低下)に対し、Sirt3 mRNAは改善効果を示した。さらに、加齢マウス(50週齢)からの卵子は体外授精後の胚発生率が有意に低下することを確認した後、Sirt3 mRNAの顕微注入による効果を解析し、その発生率が改善する傾向があることを見出した。これが有意な改善効果を示すものであるかどうか、現在引き続き検討を重ねている。これに加え、Sirt3過剰発現の効果とその機序をさらに明らかにするため、Cre-loxP依存性のコンディショナルSirt3過剰発現マウスを作成しており、Zp3-Creとの交配による卵子特異的高発現マウス作成とその卵子の解析を行う準備を整えている。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の計画として、当初以下の3項目を掲げた。1. 卵子におけるSirt3発現の加齢に伴う変化の解析2. mRNA顕微注入3. ミトコンドリアの顕微注入1,2は順調に計画が進み、一部は学会発表を行っている。3は技術的な難点があり、そのための工夫に取り組んでいるが、一方では卵子特異的遺伝子発現マウスの作成が進み、この点では予想を上回る成果が見込まれている。こうした点を総合的に判断すると、本研究は概ね順調に進展していると評価できる。
まず、Sirt3 mRNAの顕微注入により加齢卵子の発生率が改善するかどうかを中心に、前年度に引き続いてその成果を完成させる。ミトコンドリア治療、新たな遺伝子改変マウスによる検討を重ね、本年度中に加齢卵子の質的改善の可能性とその標的とすべき分子機序に関して一定の結論を出し、論文として公表する。
研究費は卵子の実験に要する消耗品費(細胞培養関連試薬、分子生物学用試薬など)とマウス飼育に関する費用に充てる。
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http://bio.m.u-tokyo.ac.jp/home-j.html