研究課題
加齢に伴う妊娠成立や正常出産率の低下、さらにはトリソミーなどの染色体異数性発生率増加の原因として、活性酸素種(ROS)やミトコンドリア機能低下などによる卵子の質的低下が指摘されているが、その分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。本研究において、我々は加齢に伴う卵子の質的低下にSirt3とその標的となるミトコンドリアのアセチル化蛋白が関与しているかどうかを解析するとともに、これらの因子のmRNAあるいは遺伝子改変ES細胞に由来するミトコンドリアの顕微注入によって加齢卵子の質が改善し、正常出産が可能になる方法を探索し、以下の結果を得た。(1)加齢マウスの卵巣では若齢マウスの卵巣に比べてSirt3 mRNAおよびタンパクレベルの低下が認められ、加齢マウスから排卵された卵子でも若齢マウスの卵子に比べてSirt3 mRNAの低下が認められた。(2)Sirt3 mRNAの卵子への顕微注入により、過酸化水素処理による卵子の受精後の胚発生率低下が著明に改善した。(3)排卵後の卵子老化(未受精卵の長時間培養による受精後胚発生率低下)に対し、Sirt3 mRNAは改善効果を示した。(4)加齢マウスからの卵子において体外授精後の胚発生率が有意に低下することを確認した後、Sirt3 mRNAの顕微注入による効果を解析し、その初期発生率が改善することを見出した。(5)Sirt3過剰発現の効果とその機序をさらに明らかにするため、Cre-loxP依存性のコンディショナルSirt3過剰発現マウスを作成し、臓器特異的Cre発現マウスを用いてその有効性を確認した。現在卵子特異的高発現マウスの作成と解析を進めている。以上の結果から、Sirt3の導入または内因性Sirt3の発現誘導が胚発生を改善させる可能性が示され、Sirt3レベルの低下した老化卵子の人工受精率の改善法開発につながることが期待された。
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