研究課題/領域番号 |
23659116
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
小比類巻 生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40548905)
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キーワード | 生体運動・形態形成・細胞間相互作用 / 生体ナノイメージング |
研究概要 |
平成25年度は、前年度までに構築した蛍光顕微鏡像と心電図・左心室圧を同時測定可能な高速イメージング系を用いて、生体内でのタンパク質動態を観察、解析することに成功した。 心電図、左心室圧などの生体マクロ情報を取得しつつ観察することで、マウスのコンディションを一定に保ち、また心拍などの振動の影響をピエゾアクチュエータを用いて除去することにより、生きたマウスの体内を鮮明にとらえることが可能になった。 EB1-GFP発現腫瘍細胞を移植した担癌ヌードマウスにおいて、微小管動態のin vivo観察を行って微小管伸長速度の解析を行い、腫瘍内の位置によって細胞内微小管の平均伸長速度が異なる(~30%)ことを発見した。腫瘍組織内における微小管動態の変化の原因を特定すべく、虚血モデルや微小管安定化試薬等を用いて解析を続けている。 また同じ装置を用いて、心筋細胞の収縮を担う分子複合体「サルコメア」の運動をナノスケールかつ高速(in vivo, 100fpsでのSD=23nm)撮影することに成功した。さらに蛍光膜染色試薬を用いて心筋細胞収縮時のイオンの出入りに重要な膜構造であるT管の観察、および心筋細胞内の毛細血管をin vivo観察することにも成功した。 加えて、サルコメアのナノスケールでのライブイメージングと左心室圧を同時計測可能な装置系を活かし、サルコメア動態と左心室圧の関係を解析することにも成功した。その結果、左心室の変動(ΔLVP)とサルコメア収縮(ΔSL)の間には直線的な相関関係があることも確認された。これは半世紀以上前からFrank-Starlingの心臓の法則として知られてきた心筋の機能を、生きたマウスにおいて分子レベルで確認することに成功した成果である。 これらの成果は日本生物物理学会、日本生理学会、アメリカ生物物理学会等において成果発表を行い、現在論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度までに、マウスを用いて個体や臓器の”動き"の中から細胞内分子の挙動をナノスケールで測定する技術を構築した。in vivoにおいて細胞内「1分子」の挙動を観察するためには更なる開発が必要である。自家蛍光の強い生体内における蛍光観察には、蛍光標識法と励起法(レーザー光源)の適切な調整が非常に重要であり、現在この部分の最適化に時間を要している。 これまでの成果として、開発した装置系を用いて、担癌マウスの腫瘍細胞内の微小管動態をEB1-GFPを用いて観察・解析することに成功し、腫瘍内での位置によって腫瘍細胞内の微小管伸長速度が異なる(~30%)現象を観察し、この現象には血流と温度が重要であることを発見した(論文作成中)。 また、同じ装置を心筋細胞に応用し、サルコメア動態と左心室圧の関係を解析した結果、左心室の変動(ΔLVP)とサルコメア収縮(ΔSL)の間には直線的な相関関係があることも確認された。これは半世紀以上前からFrank-Starlingの心臓の法則として知られてきた心筋の機能を、生きたマウスにおいて分子レベルで確認することに成功した成果である(論文作成中)。 本研究は細胞内の構造タンパク質とその関連タンパク質を取り上げ、「動きの仕組み」を分子レベルから組織・個体レベルまで一貫して理解することを目指しており、当初の予定よりもやや時間がかかったもののこれらの成果は本研究の目的に照らして一定の成果を上げていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は構築した高速ライブイメージング装置の改良と病態モデルマウスへの応用を目指す。 まず高時間(~2ms)・空間(~2nm)分解能を達成するために、光学系の改良を行っていく。そのためには経年劣化したレーザ光源の更新と、蛍光標識法の改良(蛍光タンパク質の場合は発現効率の改善)が必要である。蛍光標識法の改良については、新たな試薬や導入方法の検討(直接観察対象の臓器に注入するのか、灌流で投与するのか等)を行い、より効果的な染色方法を確立する。また蛍光タンパク質発現系においてはアデノウイルスベクターの増幅・精製方法および投与方法の改良を行う。 これら点を改善した後は、現在までに得られたデータと合わせて査読付き英文誌および学会での成果発表を行う。 将来的な目標としては、この高速イメージング系を病態モデルマウス(例:拡張性心筋症モデルマウス)に応用し、病態の分子レベルから解析――病態の進行度や機能を分子の視点から定量的に解析する方法の構築へと繋げて行きたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度後半に蛍光顕微鏡の励起用レーザの出力が必要とされるレベルより弱いことが判明し、新しいレーザ光源の導入を検討したが、年度内での納入が不可能であったため翌年度へ予算の繰り越しを行った。 上記の理由により新しいレーザ光源(488nm, 20mW)を購入する。その他、今後の実験に伴う物品費、動物飼育費等、および論文査読量や掲載料、学会発表にともなう出張旅費として使用する予定である。
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