研究課題/領域番号 |
23659118
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
岡田 泰伸 生理学研究所, -, 所長 (10025661)
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研究分担者 |
佐藤 かお理 生理学研究所, 細胞器官研究系, NIPSリサーチフェロー (60614196)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 浸透圧センサー / バソプレシン / 視索上核 / アニオンチャネル / タウリン |
研究概要 |
体液の浸透圧の調節に主役を果たすアルギニンバソプレッシン(AVP)ニューロンは、視索上核と室房核に主に局在しており、脳下垂体後葉にまで軸索を伸ばし、その神経終末で体液浸透圧の変動に応じて抗利尿ホルモンAVPの分泌を行っている。低浸透圧条件下での神経終末AVP分泌抑制のメカニズムに関する最近の通説は、下垂体後葉のアストロサイトが低浸透圧性膨張時に放出するタウリンがパラクリン的にAVPニューロン軸索終末付近のグリシンレセプター(GlyR)を活性化させ、神経興奮性を抑制してAVP分泌を抑制するというものである。しかしながらこの下垂体後葉グリア・タウリン説には種々の問題を含んでおり、未だ議論が多い。 本研究では、この通説に挑戦し、視索上核における低浸透圧センサーメカニズムを解明することを目的としている。 23年度は、視索上核からの低浸透圧性タウリン分泌由来細胞の同定、及びタウリン分泌経路の同定を目的として研究を遂行した。4~5週齢のラットSON領野から採取したアストロサイトの初代培養系を立ち上げ、低浸透圧条件下におけるタウリン分泌量を質量分析法を用いて測定した結果、低浸透圧条件下におけるタウリン分泌量が正常浸透圧条件下に比べて有意に増大している事を見出した。低浸透圧条件下におるタウリン分泌量の増加は、容積感受性外向整流性(VSOR)アニオンチャネルの特異的なブロッカーDCPIBにより有意に抑制された。 以上の結果より、視索上核のアストロサイトが低浸透圧性タウリン分泌由来細胞であり、その分泌経路にVSORアニオンチャネルが関与していることが明らかとなった。 また、4~5週齢のラットSONから採取したAVPニューロンの初代培養の立ち上げにも成功し、平成24年度の研究に備える事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度研究実施計画における目的の1つ目は『視索上核からの低浸透圧性タウリン分泌由来細胞の同定』であった。当初用いる予定であったHPLC法が、この実験系に適用できないという危機に直面したが、その代替策として、質量分析法を用いて低浸透圧条件下におけるタウリン分泌実験を遂行する事が出来た。その結果、視索上核のアストロサイトが低浸透圧を感知し、タウリンを分泌する事を見出した。AVPニューロンからのタウリン分泌の有無については、4~5週齢のラットSONから採取したAVPニューロンの初代培養の立ち上げに成功するまでは至ったものの、23年度中に実験を終了する事は出来なかった。この事については、24年度も引き続き実験を進める予定である。 目的の2つ目は、『SONからの低浸透圧性タウリン分泌経路の同定』であった。目的の1つ目でタウリンを分泌する事が明らかになった視索上核のアストロサイトにおいて、低浸透圧条件下におけるタウリンの分泌量が、容積感受性外向整流性(VSOR)アニオンチャネルの特異的ブロッカーDCPIBによって抑制される事を見出した。この結果から、アストロサイトにおけるタウリンの分泌経路にVSORアニオンチャネルが関与する事が示唆された。 このように、23年度の実験計画に挙げた2つの目的が着実に遂行され、結果も得られている事から、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の実施計画にあった、SONからの低浸透圧性タウリン分泌の由来細胞の同定について、AVPニューロンからのタウリン分泌の有無がまだ検討中である事から、AVPニューロンが、低浸透圧条件下におけるタウリン分泌細胞であるか否かについて、24年度も引き続き検討していく。その他の内容については、23年度に実施した実験の結果が、私達の予想とほぼ同じであったことから、24年度における実施計画内容も当初の計画通りに行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に計画していた、HPLC法によるタウリン分泌量の測定実験において、手法を習いに行く予定であったが、質量分析を用いた実験が可能であり、すべて所内で出来た為に旅費を当初の金額から抑える事が出来た。また、タウリンの分泌実験において、HPLC法に比べて質量分析にかかる費用の方が安価であったため、物品費を抑える事が出来た。これらの理由から次年度への繰越額が生じた。 次年度は、in vivo実験を中心に行うため、動物飼育等、物品にかかる費用がこれまで以上に増える事が予想される。よって、機械の購入はせず、次年度への繰越額をすべて物品費に充て、動物の飼育費、及び、実験に必要な試薬の購入を中心に研究費を使用する。
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