研究課題/領域番号 |
23659119
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
園山 慶 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90241364)
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研究分担者 |
坪田 敏男 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (10207441)
滝口 満喜 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (70261336)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 冬眠 / 消化管 / 上皮細胞 / シリアンハムスター / ツキノワグマ |
研究概要 |
冬眠動物の腸粘膜上皮の細胞更新が遅滞することを次のように見いだした。シリアンハムスターを24時間暗期で室温4℃の条件で飼育することにより、冬眠を誘導した。BrdU パルス実験を行ったところ、BrdU 投与の240 時間後においても小腸粘膜上皮におけるBrdU 陽性細胞は陰窩にとどまったままであった。一方、活動個体ではBrdU 投与48 時間後には既に絨毛上部に到達していた。これらのことは、通常は3~4日で更新される小腸粘膜の上皮細胞が、冬眠個体では10日が経過してもまったく更新されていないことを示唆している。小腸粘膜上皮の微細構造変化を知るために走査型電子顕微鏡観察を行った結果、活動個体では絨毛表面が円滑であったのに対し、冬眠個体では粗雑に見え、透過型電子顕微鏡観察では、上皮細胞膜に存在する微絨毛が活動個体では整然と並び、その表面には糖衣が観察されたのに対し、冬眠個体では微絨毛の配列が乱雑で、糖衣も明瞭に認められなかった。以上のことから、冬眠個体の小腸粘膜上皮では、細胞更新が遅滞しているのにともなって、細胞の微細構造の変化も生じていることが示唆された。また、上皮細胞の機能についても解析したところ、冬眠個体では消化酵素活性の上昇や杯細胞におけるムチン糖鎖の変化が見られ、上皮細胞の過成熟が示唆された。さらに、冬眠個体の小腸粘膜では絨毛上部の上皮細胞に細胞老化関連β-ガラクトシダーゼの活性が認められた。すなわち、冬眠個体の小腸粘膜上皮における細胞更新の遅滞により、細胞寿命の延長にともなう細胞老化が生じるものと推察された。しかしながら、腸粘膜透過性、粘液および分泌型イムノグロブリンAの産生・分泌、ならびに腸粘膜上皮の密着結合構成タンパクの発現については、冬眠個体と活動個体との間に顕著な差は見られず、腸粘膜バリア機能は維持されていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、冬眠動物に特異的な腸内細菌の制御系と腸粘膜バリアを解明するために、シリアンハムスターとツキノワグマを冬眠動物のモデルとして用い、活動期と冬眠期における I. 腸内細菌叢の比較、II. 腸内の抗菌・静菌活性の比較と活性本体の探索・同定、III. 腸粘膜透過性の比較、IV. 粘液および分泌型イムノグロブリンAの産生・分泌の比較、V. 腸粘膜上皮の密着結合の比較、を実施する計画である。シリアンハムスターの冬眠個体における腸粘膜上皮の細胞更新遅滞およびそれにともなう上皮細胞機能の変化、腸粘膜透過性、粘液産生、分泌型イムノグロブリンA産生、および腸粘膜上皮の密着結合構成タンパクの発現については、「研究実績の概要」で記したとおりに研究を達成できた。しかしながら、腸内細菌叢に関する解析(I. 腸内細菌叢の比較、II. 腸内の抗菌・静菌活性の比較と活性本体の探索・同定)は現在実施中であり、またツキノワグマに関しては、試料は既に採取済みであるが、分析は未実施である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していながら、現在までに達成できていない以下の項目を解析する。I. 腸内細菌叢の比較(ツキノワグマ)II. 腸内の抗菌・静菌活性の比較と活性本体の探索・同定(ハムスター) さらに、既に採取したツキノワグマ腸管粘膜上皮の生検試料を用いて、免疫組織化学的手法により粘膜上皮の細胞更新に関する情報を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
ハムスター腸内の抗菌・静菌活性の比較と活性本体の探索・同定を予定していたが、23年度は当該実験を実施しなかったため、当該実験に使用予定の試薬類の購入費用(119,606円)が未使用額として発生した。24年度はこの未使用額を使用して試薬類を購入し、当該実験を実施する予定である。
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