研究課題/領域番号 |
23659121
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
能勢 博 信州大学, 医学系研究科, 教授 (40128715)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 暑熱耐性 / 熱中症予防 / 生活習慣病 / 遺伝子修飾 / 運動トレーニング |
研究概要 |
中高年者で熱中症が増加しているが、その主な原因は不活動による体温調節機能劣化が関与している可能性が高い。最近、不活動は、全身的な免疫異常・慢性炎症を引き起こし、これが糖尿病などの生活習慣病を引き起こすという考えが一般的である。実際、我々は運動トレーニングによって「免疫反応の感受性を調節するASC遺伝子が修飾(メチル化)されること」を発見した。また、ASC遺伝子のメチル化はIL-1βの産生を抑制し、インシュリンの働きを活性化することが報告されている。一方、我々は、最近、「インシュリンが腎のNa (水)の再吸収量を促進し血漿量増加に重要であること」、さらに「この血漿量の増加が、ヒトにおける体温調節能の決定因子であること」を明らかにした。そこで、今回「運動トレーニングによるASC遺伝子修飾が暑熱耐性を向上させる」という仮説を検証する。平成23年度は、空腹時血糖値の高い中高年女性48名を対象とし、持久性運動能、筋力、インシュリン感受性、耐糖能、血漿量、腎機能、体温調節能を測定を行い、さらのASC遺伝子のメチル化を測定するために白血球の採取を行った。体温調節能は、座位にて、市販のフットウォーマーによって体温を上昇させ、その間の発汗速度、皮膚血流量から判定する実験システムを構築した。その結果、45分間以内の高温負荷でほとんどの被験者の体温調節能が判定できることが明らかとなった。すなわち、同システムを用いることにより、人工気候室などの特別な施設がなくても、フィールドで大勢の被験者を対象に、一度に体温調節能が測定できるようになり、中高年者の体温調節能のメガDBの構築に一歩近づく成果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は平成9年より15年間余り、自治体、企業と連携し、中高年者のための健康運動教室「熟年体育大学」事業を運営し、「インターバル速歩」、「携帯型カロリー計」、「遠隔型個別運動システム」を用い、運動処方効果について、これまで5200名のデータベースを構築した。このデータベースは事業参加者に対し、科学的根拠に基づく運動処方を実施することを可能にし、運動効果の保証、運動継続率の向上をもたらした。この間、平成15-17年度・経済産業省「健康サービス産業モデル事業」によってインフラを整備し、平成17-19年度・厚労省「長寿科学研究・中高年健康増進のためのITによる地域連携型運動処方システムの構築」によって運動処方の生活習慣病・介護予防への効果に関するデータベースを構築し、さらに、平成18-22年度・文科省「特別教育研究費・熟年体育大学リサーチセンターにおける遺伝子背景を考慮した個別運動指導」によって信州大学遺伝子解析コンソーシアムを発足させた。このように、運動処方の実践、その効果の解析、さらに効果の個人差を説明しうる遺伝子背景の解明についての研究体制が整備されている。このことが、今回の研究をスムーズに進めさせた理由である。また、現在、常時1500名の中高年者が同事業に参加し、運動トレーニング効果に関する実証実験のための被験者としての協力が得やすい状況にあるが、特に、昨年から「節電熱中症」に関して広くマスコミにとりあげられている中、本研究テーマに関する研究協力が得やすい状況であったことももう一つの理由として挙げることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得た測定結果から、ASC遺伝子メチル化と体温調節能の関連と、そのメカニズムについて横断的に解析をする。さらに、平成24年5月から9月までインターバル速歩を中心とした持久性トレーニングを実施し、その前後の測定値の変化から、横断的解析結果を支持する結果が得られるか否かを検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
現在48名の中高年者について、トレーニング前の血液成分、体力、耐糖能、体温調節能、遺伝子採取が完了しているが、これらの測定項目の相互関連について解析を行う。体力の高い被験者ほどASC遺伝子のメチル化が亢進し体温調節能が高いことが期待できる。そのためのアルバイト雇用のための謝金を申請した。さらに、今年度はインターバル速歩トレーニングを実施し、その後トレーニング前と同様の測定を実施する予定である。トレーニングによって体力が向上するのに比例してASC遺伝子のメチル化が亢進することが期待できる。そのためのトレーナーの人件費、消耗品費、解析の謝金を申請した。次年度への繰越金は17681円であるが、理由は当初予定していた血液検査項目の一部が測定機器の調子が悪く、測定が来年度への持ち越しとなったためである。
|