研究課題/領域番号 |
23659123
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
粟生 修司 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 教授 (40150908)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会的伝達 / 社会的影響 / 群れ行動 / 報酬獲得行動 / 危険回避行動 / 内側前頭前野 |
研究概要 |
社会的動物は集団を組織し、生存のための有益な情報(危険回避や報酬獲得など)を発信・受信する。逆に、有害行動が社会的に伝播され、問題となる場合もある(肥満、飲酒、喫煙など)。このような社会的伝達は動物にも認められ、その脳内機構が普遍的に存在すると考えられるが、その詳細は明らかでない。本研究は、危険回避行動や報酬獲得行動が10個体以下の中規模集団における相互影響の個体数依存性や行動特性依存性について調べ、さらにその神経機構を明らかとすることを目的とする。 初年度は、(1)報酬獲得行動の社会的伝達について、(1)2匹の環境で、物理的に接触しない他者の存在が、食物探索行動を促進し、新奇食物に対する恐怖反応を減弱するが、摂食量には影響をしないこと、(2)物理的に接触できる3匹から5匹までの群れ環境で報酬獲得行動と社会行動を評価し、血縁関係の影響に性差があること、発達期環境が個体間距離に影響を及ぼすことが明らかになった。評価系確立の過程で、現有設備では個体識別は4匹まで有効で、5匹以上になると個別解析対象として扱えないことが判明し、評価対象群と社会的刺激群に分ける必要があることも明らかになった。(2)危険回避行動については、(1)回避行動の社会的伝達における感覚情報の関与について、視覚と嗅覚の重要度を評価し、どちらの感覚でも欠如すると伝達が低下することが明らかになった。(2)次年度に予定していた破壊実験を、実験系確立を早めるため初年度にも実施し、内側前頭前野を破壊すると社会的影響が増強することを見出した。 報酬獲得行動、危険回避行動ともに他個体の存在はその発言に影響を及ぼすことがァ明らかになり、その感覚情報の意義およびその制御にかかわる中枢部位の一端を秋kらかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報酬獲得行動および危険回避行動ともに社会的影響を検出することができ、なおかつ視覚および嗅覚の意義や内側前頭前野の関与を明らかにすることができたのは計画以上に進展できている点である。 一方、個体数依存性の解析については当初10匹まで増やす予定であったが、計測限界があり、現実的には2匹、4匹、8匹の3ケースを解析することになった。また個別の運動解析ができるのが4匹までのため、8匹の場合も4匹の解析対象群と4匹の社会的刺激群に分けて評価する必要がでてきたのは、計画どおりに進まなかった部分である。 次年度にむけて、FOS解析のための予備実験も進めており、また新たな展開として社会的影響を及ぼす過食群としてより現実の問題に近い無茶食いモデル動物やストレス性過食モデルの開発を進めており、これも当初の計画以上の進展といえる。 これらを総合的に評価するとおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1)報酬獲得行動および危険回避行動の評価系は現法を従来通り進める。2)個体数依存性の解析法については10匹までの詳細な解析から、2匹、4匹、8匹の3ケースの解析に変更する。ただし、各集団において、集団サブグループの解析も行うことで集団動態のより詳細な解析を進める。実際、本年度の研究で、血縁の有無で個体間距離が異なり、さらにその血縁の影響に性差があることも明らかになっているので、10匹まで無作為に増やすよりもサブグループの評価ができるかたちで、2匹、4匹、8匹で比較検討したほうが、得られる情報量が多いことが期待される。3)FOS解析の予備実験によると、比較的微弱な刺激や環境変化の場合は反応部位を同定するのはかなりの困難が生じることが示唆される。群れ環境自体は自然な状態に近く、また摂食行動も通常の行動のため、FOSの発現の変化の検出にはかなりの困難が予想される。破壊実験、刺激実験、神経活動解析の中から最も機構解析に有効と思われる実験法を検討した上で今後のアプローチを決める必要があるかもしれない。4)過食および拒食モデルにつていは、現実の問題に近い無茶食いモデル動物やストレス性過食モデルやストレス性拒食モデルの利用も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の行動試験を続行するとともに社会的伝達に関与する脳部位を同定する。1)神経マーカー測定による関与脳領域候補の特定:神経活動に伴い発現するタンパク質(c-Fos)の発現量を調べることで脳のどの部位が重要かを推定する。集団内個体数を2,4,8と変え、その行動変化(摂食・学習行動の変化)に対し、相関のある脳領域を特定する。個体数増大に対してさまざまな感覚系入力が増大し、いわゆる知覚系脳部位の全体的な活動上昇が生じると思われるが、その後の情報処理がどのように動くかが特に注目すべき点であり、視床下部、扁桃体、前部帯状回、内側前頭前野を標的候補として検討する。2)神経活性化・不活性化実験による関与脳領域の同定:(1)で推定された脳部位に微量の薬物注入を行う。薬物はムシモールなどの「神経の活動を抑制するGABA受容体アゴニスト」を用いる。薬物投与実験は反復投与が可能であり、本研究のデザイン(Cross Over デザイン・使用動物の縮小のため反復的に行動解析を行う)とうまく適合する。行動の伝搬が障害されれば、行動伝搬に関与する有力な脳領域だと考えられる。
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