研究課題/領域番号 |
23659123
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
粟生 修司 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 教授 (40150908)
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キーワード | 社会的伝達 / 社会的影響 / 群れ行動 / 報酬獲得行動 / 危険回避行動 / 内側前頭前野 / 協調課題 |
研究概要 |
社会的動物は集団を組織し、生存のための有益な情報(危険回避や報酬獲得など)を発信・受信する。逆に、有害行動が社会的に伝播され、問題となる場合もある(肥満、飲酒、喫煙など)。このような社会的伝達は動物にも認められ、その脳内機構が普遍的に存在すると考えられるが、その詳細は明らかでない。本研究は、危険回避行動や報酬獲得行動が10個体以下の中規模集団における相互影響の個体数依存性や行動特性依存性について調べ、さらにその神経機構を明らかとすることを目的とする。 2012年度の主要実験計画のひとつは社会的影響の中枢部位をFos蛋白の発現を指標に検出することであったが、報酬獲得行動に変化が起きている状況でもFos蛋白の発現に有意の変化が認められなかった。そのため、より鋭敏な評価モデルを確立するため、はさまざまな環境における社会行動と情動行動をマウス、ラット、サルで検討した。ラットの無茶食いモデルやストレス性過食モデルの情動反応性を評価した。 1)マウスではdb/dbマウス、c57BLマウス、ICRマウスを用い、低重力環境における社会行動を評価した。その結果、微小重力下でdb/dbマウスが寄り添い行動をよく発現し、ストレス反応も低いこと、ICRマウスが最も接近行動が少ないことが明らかになった。 2)ラットでは過食モデルラットを開発し、早期離乳などの発達期ストレスや不安情動と過食の関係を調べた。早期離乳は高嗜好食の過食を促進すること、不安になりやすい個体は過食応答を起こしやすいことが明らかになった。 3)サルでは報酬獲得時に協調作業をすると個体間の社会行動や性行動が促進することが明らかになった。社会行動や群れ行動は摂食行動や性行動などの本能行動ならびにさまざまな環境下における情動レベルと密接な機能連関があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の主要な実験計画のひとつはFos蛋白の発現を解析することであったが、マイルドな環境変化では報酬獲得行動の変化が認められた状態でもFos発現に有意の変化が認められず、実験環境の影響を検出することができなかった。危険回避行動については社会的環境の影響の仕方が経験等の条件により異なるため、Fos蛋白を指標とした解析は報酬獲得行動以上に困難なことが予想された。そのためさまざまな環境における群れ行動および社会行動と報酬獲得行動および危険回避行動の関係をラットだけでなくマウスやサルでも検討することで、その中でより鋭敏な評価系を確立することを試みた。そのうえで中枢機構を解析することにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、報酬獲得行動についてはポジティブな親和的社会関係がある個体間では協調的行動をすることで報酬獲得に関係する社会行動がさらに促進することがサルの評価系で明らかになったが、報酬価値自体が社会行動に影響する可能性もある。今後の課題の一つとして、次年度検討する予定である。 ネガティブな非親和的・相互攻撃的社会関係がある場合、報酬獲得行動は報酬の内容により影響のしかたが異なる。非親和的・相互攻撃的社会関係がある個体間で協調的行動を強制的に発現させた場合、社会的関係が修飾されるかどうかも興味ある課題として次年度検討する予定である。 ラットやマウスでは空間密度が同じである場合、少なくとも2匹以上10匹以内の個体数では報酬獲得行動に大きな差は認められない。1匹だけにすると行動は大きく変化する。ラットやマウスではその社会的関係性がサルに比べるとかなり弱いので、影響の検出はかなり感度の高い行動指標を設定する必要がある。今年度の研究ならびに過去の我々の研究で、社会性の指標のひとつである個体間距離がさまざまな環境変化に対して影響を受けることが明らかになっている。この指標を用いた検討を次年度に実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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