研究概要 |
昨年度までの研究成果により、ニコチン及びタール除去タバコ煙水抽出物(Cigarette Smoke Extract, CSE)中の細胞傷害因子が、カルボニル化合物であるアクロレイン(ACR)、メチルビニルケトン(MVK)、及び2-シクロペンテン-1-オン(CPO)であることが判明した。また、CSEによる細胞膜傷害には細胞内カルシウム依存的なプロテインキナーゼC(PKC)の活性化が関与していることを示した。そこで本年度は、同定した3種類のカルボニル化合物による細胞傷害の分子機構の解明、及び動脈硬化症の病態基盤となる単球/マクロファージ系細胞に対する作用の解析を行った。ラットC6グリオーマ細胞及びヒト単球U937細胞において、CSE、ACR及びMVKは細胞内カルシウム依存的にPKCを活性化し、細胞膜傷害を引き起こした。一方、CPOによるPKC活性化、及び細胞膜傷害は観察されなかったことから、CPOはACRやMVKとは異なる分子機構で細胞傷害を惹起する可能性が示唆された。一般にPKC活性化薬は単球からマクロファージへの分化を促進する。そのため、ACRあるいはMVKがPKC活性化による単球からマクロファージへの分化を惹起し、動脈硬化症発症及び進展の促進に寄与しているのではないかと考えた。そこでフォルボールエステルを用いて単球の分化を促すと、分化後の細胞は、CSE、ACRあるいはMVKによる細胞膜傷害に対する耐性を獲得した。加えて、ヒト単球培養細胞であるU937細胞をACRで処理したところ、マクロファージマーカーであるCD36の発現上昇が確認された。これらの結果から、ACRによるPKC活性化とそれに伴う単球のマクロファージへの分化及び細胞傷害活性に対する耐性獲得が、喫煙を原因とする動脈硬化症発症の新たな分子機構である可能性が示唆された。
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