研究課題/領域番号 |
23659132
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
増本 博司 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80423151)
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キーワード | 化学物質 / 変異原 / バイオアッセイ / 真菌 / 真核生物 |
研究概要 |
社会に流通している膨大な種類の化学物質について懸念されるのは、染色体DNAへの変異原性あるいは障害性である。DNA変異原性を調べる手法として生物を利用したアッセイ法として大腸菌を利用したumu test、サルモネラ菌を利用したAMES testが知られている。これらの手法はヒトをはじめとした真核生物のみDNA変異原性および損傷性を示す化学物質を検出できない欠点が挙げられる。我々はこの欠点を補う真核生物である出芽酵母を用いたDNA変異原性アッセイ法の開発を試みた。 化学物質の細胞外への排出能を司るABC transporterを担うYRR1, PDR1, PDR3, PDR5遺伝子群, および細胞膜の構成成分であるPMT2遺伝子を破壊し、細胞内に化学物質が滞留しやすくした酵母株に、DNA損傷に伴う染色体腕の消失(Loss of heterzygosity: LOH)を菌コロニーの色の変化として検出するシステムを組み込んだ。作製株は野性株と比較して、ミトコンドリア呼吸系の阻害剤Rhodamine 6G、紫外線と同じ効果を引き起こす4-NQOに対してより強い感受性を示すほか、ニコチンアミド(ビタミンB3)に対しても感受性を示した。ニコチンアミドはNAD+依存性ヒストンデアセチラーゼの阻害剤として機能する。NAD+依存性ヒストンデアセチラーゼは真核生物特異的なクロマチン構造異常に伴うDNA損傷修復に関与することから、ニコチンアミドがDNA損傷を引き起こす可能性が考えられる。本研究にて作製した細胞はニコチンアミド処理によって染色体腕の欠損に伴うLOHを検出した。このように化学物質の滞留性を高め、LOHを検出することができる酵母株は、細胞毒性を示す化学物質をより低い濃度で検出すること、真核生物特異的な構造に起因するDNA変異原性を検出することが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微生物を利用したDNA変異原性アッセイの真核生物版の作成を研究目的とした本研究では、当初の計画通りバイオアッセイ用の出芽酵母株を作成した。細胞増殖阻害の可能性が指摘されている化学物質に対して、作成した酵母株は野生株よりも鋭敏な細胞増殖阻害を示した。これは化学物質の細胞外への排出能を司るABC transporterおよび細胞膜の構成成分を破壊した細胞では化学物質の細胞内滞留が起こりやすく、より低い濃度の化学物質でも十分に細胞毒性の効果を生んでいることを示唆している。また研究の目的である真核生物特異的にDNA変異原性を引き起こす化学物質として、真核生物特有のクロマチンの構造に影響を与え、間接的にDNA損傷を与えるニコチンアミドを使用し、作成した酵母株で、ニコチンアミドによるDNA変異原性が起こることを確認した。上記の研究成果は学会にて発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初の研究目的を達成した反面、いくつかの課題を見いだした。作成した酵母株は化学物質に対して感受性を示す、あるいはDNA変異原性を示すが、ほかの微生物を利用したバイオアッセイ(DNA変異原性に最短10 min程度で検出)に比べると日数にして2,3日必要であり、実際に製薬関連企業が本研究酵母株を化学物質のDNA変異原のバイオアッセイとして使用するには時間がかかりすぎる欠点がある。そのため、特に化学物質の変異原性については、時間のかかる細胞コロニーの色の変化ではなく、化学物質により引き起こされるDNA損傷がDNA損傷チェックポイントの活性化を介して誘導されるマーカータンパク(蛍光タンパクGFPなど)の発現の有無で判別するシステムを導入することを計画している。この方法は2. 3日かかるコロニー発色よりも、約2時間程度でDNA損傷の有無を確認できると期待される。この改良によって化学物質のDNA変異原性をより短時間で検出する酵母株を用いたバイオアッセイの確立を狙う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究でははじめに予定していた酵母株の作成、およびバイオアッセイとしての有用性についてのテストが順調に進んだため、平成24年度の研究費が平成25年度へ繰り越しが生じた。 平成25年度は「今後の研究の推進方策」にも記したように、前年度作成した酵母株の改良およびバイオアッセイ法としての手法の確立を行う。そのため平成25年度繰り越し金は物品購入費用として酵母株の作成に必要な試薬類とテスト用の化学物質の購入、バイオアッセイを行う研究補助員の雇用および学会参加に必要な旅費等に使用する予定である。
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