研究課題/領域番号 |
23659142
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
赤羽 悟美 東邦大学, 医学部, 准教授 (00184185)
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研究分担者 |
中瀬古 寛子 東邦大学, 医学部, 助教 (80408773)
伊藤 雅方 東邦大学, 医学部, 助教 (20459811)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / トリグリセリド / コレステロール / リポ蛋白 / 胆汁酸 / 肝臓 / マウス / 脂質転移蛋白 |
研究概要 |
本研究の目的は、脂質転移蛋白Stard10に注目して肝臓におけるトリグリセリドとVLDLの生合成過程の制御と破綻の分子機構を明らかにし、新たな治療戦略の分子基盤を構築することである。そこで下記の実験を実施し、成果を得た。 (1) Stard10ノックアウトマウス(Stard10 KO)の肝臓における脂質代謝を野生型マウス(WT)と比較検討したところ、コレステロールおよびトリグリセリドの含有量がStard10 KO ではWTに比較して有意に低かった。また、高脂肪食の負荷によりWTは脂肪肝を呈したのに対し、Stard10 KOは肝臓に脂肪が蓄積しにくく脂肪肝になりにくいことを見出した。 (2) メタボローム解析および胆汁酸解析を行った結果、Stard10 KOはWTに比較して胆汁酸の分泌と排出が亢進していることを見出した。また、マイクロアレイ解析とqRT-PCR解析により、Stard10 KO肝臓ではPPAR-αで制御される胆汁酸合成制御関連遺伝子の発現が顕著に低下していることを明らかにした。 (3) マウス肝臓pull-downサンプルのプロテオーム解析によりStard10と複合体を形成する蛋白を探索したところ、リポ蛋白生成および脂質代謝調節に関連する蛋白を同定した。 (4) 超解像画像解析技法により、マウス肝臓細胞におけるStard10の細胞内局在を解析した。Stard10は肝細胞膜、特に毛細胆管側膜、および脂肪滴膜とその近傍の小胞体周囲に局在することを見出した。 (5) Stard10はin vitroの実験からフォスファチジルコリン(PC)転移活性を有することが示されているが、その生理的意義は不明である。そこで、肝臓および胆汁中のPC含量を測定したところ、Stard10 KOとWTの間で有意差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた実験は、ほぼ全て実施することができた。その結果、以下に示す知見を得た。 1) Stard10 KOマウスはWTマウスに比較して肝臓に脂質が蓄積しにくいこと、その理由として 2) Stard10 KOではWTに比較して胆汁酸の分泌と排出が亢進していることを見出した。よって、Stard10 KOはWTに比較して胆汁酸の消費が亢進していると考えられた。また、Stard10がPPAR-αの活性制御に関わっているという重要な知見を得た。さらに 3) 肝臓においてStarD10と複合体を形成する蛋白を探索したところ、リポ蛋白生成および脂質代謝調節に関連する蛋白を同定した。今後、それらの相互作用の機能的意義を明らかにする予定である。 4) マウス肝細胞においてStard10は肝細胞膜、特に毛細胆管側膜、および脂肪滴膜とその近傍の小胞体周囲に局在していた。これらは肝細胞において胆汁酸分泌やVLDL産生に重要な場であることから、非常に意義深い知見である。5) 肝臓や胆汁中のPC含有量にはStard10 KOとWTの間で差が認められなかったが、最近、PCの中にPPAR-αのアゴニストとして働くものがあることが報告されたことから、PCの細胞内局在の変化を明らかにする必要がある。現在、解析を進行中である。 6) さらに、胆汁酸代謝や脂質代謝の解析を進める過程で、胆嚢、小腸、脂肪組織、心房においても、Stard10 KOとWTの間に遺伝子発現や機能の差異が認められた。脂質代謝は臓器間のネットワークを介して制御されていると考えられることから、これらの臓器におけるStard10の発現を調べたところ、胆嚢、小腸、心房において発現していたが、白色および褐色脂肪組織においては発現が認められなかった。次年度は、これらの臓器におけるStard10の役割も合わせて解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、次の実験を進める予定である。 1) 培養肝細胞系を用いて、PPAR-αの活性制御におけるStard10の役割を明らかにする。具体的には、PC転移活性の関与と相互作用蛋白を介した関与について、検討する。 2) Stard10と相互作用蛋白を含む脂質トランスポートソームの分子実態とそれらの機能的連関を明らかにする。Stard10と複合体を形成する蛋白について、肝臓のトリグリセリドおよびVLDL生成におけるそれらの相互作用の意義を明らかにする。そのためにStard10と相互作用蛋白の結合ドメインを同定し、そのドメインに変異を導入することにより相互作用できない変異体を作成する。この変異体を培養肝細胞に強制発現させて、トリグリセリド生合成およびVLDL生成過程を解析し、Stard10ノックダウンと野生型の間で比較検討する。3) Stard10、相互作用蛋白、トリグリセリド生合成およびVLDL生成関連蛋白の細胞内局在を免疫組織化学、PLA法、高解像度画像解析法により比較検討する。毛細胆管側膜および脂肪滴膜とその近傍の小胞体周囲においてStard10と共局在する蛋白を探索する。それらの蛋白の局在をStard10 KOとWTで比較する。 4) Stard10 KOとWTについて肝細胞の脂肪滴の脂質組成を解析し、比較検討する。 5) トリグリセリド生合成およびVLDLへの搭載過程の調節機構におけるStarD10の役割を明らかにするために、野生型StarD10または変異型StarD10を肝臓特異的に過剰発現したマウスを作成し、肝臓および血清の脂質レベルを測定し、リポ蛋白プロファイリングを行う。さらにラージスケールのメタボローム解析を行う。 6) 小腸、脂肪組織、心房におけるStard10の役割を解析し、臓器間の連携機構を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 平成23年度未使用額が生じた状況の説明: 実質的な3月末日までの支出後の残金は¥203704であるが、東邦大学学事統括部の支出処理が一部4月に入ったため、収支状況報告書の次年度使用額(残金)は¥543594となっている。また、3月末に発注した試薬の一部は国内在庫が無く輸入品となったため、年度内に納品が間に合わず、支出残金が発生した。その他はおおむね交付時の予算通りの執行内容であった。2. 次年度の研究費使用計画[物品費] 細胞培養、分子生物学的解析、画像解析、ウェスタンブロッティング、細胞分画、蛋白間相互作用の解析、トリグリセリド、コレステロール、遊離脂肪酸、リン脂質、胆汁酸、アディポカインおよびレプチン、インスリン等の定量および組成解析に必要な消耗品および試薬を購入する。マウスの胆汁酸分泌量や門脈内投与などの精密な in vivo 実験に必要な手術器具および実態顕微鏡を購入する。マウスおよびマウス用滅菌飼料と特殊飼料(高脂肪食)の購入に充当する。[旅費] 国内の学会に参加し、研究成果を発表するための旅費を必要とする。申請者自身、分担研究者、および一緒に実験を行う大学院生の旅費もカバーする予定である。[その他] リポ蛋白プロファイリング、リン脂質サブクラスの定量解析、メタボローム解析など、当該実験設備で実施できない解析項目については、受託業者に外注する予定であり、外部受託解析費用に充当する予定である。また、論文投稿料および掲載料、報告書作成費用として使用する予定である。
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